Contents
命令法・能動態
現在と未来があります。「現在」はその命令が今すぐ実行されると期待される場合に用いられます(第1命令法とも呼ばれます)。「未来」は将来実行されると期待される場合に用いられ、主に法律や布告の文に見られます(第2命令法とも呼ばれます)。
命令法・能動態・現在
2人称と3人称、それぞれ単数と複数があります。一番頻度の高いのは命令法・能動態・現在、2人称単数です。
stultitiam: stultitia,-ae f.(愚かさ)の単数・対格。
incrēdibilem: 第3変化形容詞incrēdibilis,-e(信じられない)の女性・単数・対格。stultitiamにかかる。
vidēte: videō,-ēre(見る)の命令法・能動態・現在、2人称複数。陪審員たちに向けての命令。
命令法の作り方
命令法・能動態・現在、2人称単数
命令法・能動態・現在、2人称単数の作り方は簡単です。動詞の不定法の語尾から-re を取ればこの形が得られます(現在幹と一致)。amō の不定法(能動態)は amāre なので、この語尾から-re を取ると、amāになります。
-
- Sī vīs amārī, amā. 愛されたければ愛しなさい。
同様に、第2変化動詞rīdeō の命令法はrīdē(笑え)、第3変化動詞discō の命令法はdisce(学べ)、第4変化動詞audiō の命令法はaudī(聞いて)になります。動詞の不定法は、活用パターンに応じて-āre、-ēre、-ere、-īreという4つの異なる語尾を持ちますが、そこから-reを取った命令法の語尾も(当然ながら)次のように4種類に分かれます。
第1変化動詞の命令法の語尾 -ā
第2変化動詞の命令法の語尾 -ē
第3変化動詞の命令法の語尾 -e
第4変化動詞の命令法の語尾 -ī
<注意>
動詞の中には現在幹(不定法の語尾から-reを取った形)の母音が落ちるものがあります。
代表例:
dīcō,-ere(言う)→dīc(dīceの語尾のeが落ちる)
dūcō,-ere(導く)→dūc
faciō,-ere(作る)→fac
ferō,ferre(運ぶ)→fer
例文:
- Dīc mihi, crās istud, Postume, quando venit? Mart.5.58.2 おまえの「明日」は、ポストゥムスよ、いつ訪れるのか、言ってくれ。
- Perfer, obdūrā. Cat.8.11 耐えよ、持ちこたえよ。
PerferはPer+ferと分解できます。不規則動詞ferō,ferre(耐える)に前置詞 perがついた合成動詞です。-ferōの部分が -ferになるのは -fereの語尾のeが落ちるためです。
sumの命令法・現在
2人称単数は es、2人諸複数は esteです。
命令法・能動態・現在、2人称複数
複数では、現在幹(不定法・能動態・現在の語尾から-reを取った形)に -teをつけます。amō,-āre(愛する)を例にとると、amāteとなります。ただし、第3変化動詞の場合、現在幹の幹末のeをiに変えてから -teをつけます。agō,-ere(行う)を例にとると、agiteになります。
命令法・能動態・未来、2人称単数、3人称単数
未来の単数(2人称単数と3人称単数)は同形です。現在幹に-tōをつけます。amōを例にとると、amātōとなります。ただし、第3変化動詞の場合、幹末のeをiに変えます。agōを例にとると、agitōになります。
sciō,-īre(知る)、meminī,-isse(覚えている)など、命令法・能動態・未来(第2命令法)しかない動詞もあります。それぞれ2人称単数、2人称複数の順に、scītō,scītōte、mementō,mementōteになります。
命令法・能動態・未来、2人称複数、3人称複数
未来の複数形は、2人称の場合、現在幹に-tōteを加えます(ただし、第3変化動詞の場合、幹末のeをiに変える)。amōはamātōteになり、agōはagitōteです。
3人称複数の場合、第1・第2変化動詞については現在幹に-ntōを加えます。amōはamantō、moneōはmonentō とします(巻末の母音は短母音化します)。第3・第4変化動詞については現在幹に -untōを付け加えます。ただし第3変化動詞の場合、巻末のeを落とします。第4変化動詞の場合、巻末の母音は短母音化します。agōはaguntō、audiōはaudiuntōとします。
命令法・能動態の種類
二人称単数 | 二人称複数 | 三人称単数 | 三人称複数 | ||
amō | 現在 | amā | amāte | ― | ― |
未来 | amātō | amātōte | amātō | amantō | |
videō | 現在 | vidē | vidēte | ― | ― |
未来 | vidētō | vidētōte | vidētō | videntō | |
agō | 現在 | age | agite | ― | ― |
未来 | agitō | agitōte | agitō | aguntō | |
capiō | 現在 | cape | capite | ― | ― |
未来 | capitō | capitōte | capitō | capiuntō | |
audiō | 現在 | audī | audīte | ― | ― |
未来 | audītō | audītōte | audītō | audiuntō |
命令法・能動態の例文
リンク先に文法の詳しい説明があります。
- Animum rege.
- Avē atque valē.
- Carpe diem.
- Domine, dīrige nōs.
- Dōnā nōbīs pācem.
- Dum fāta sinunt, vīvite laetī.
- Ede, bibe, lude, post mortem nulla voluptas.
食べろ、飲め、遊べ、死後に快楽はなし。 - Estō perpetua.
- Estō tua sorte contentus.
- Expende Hannibalem.
- Haec caelestia semper spectātō, illa hūmāna contemnitō.
- Ōrā et labōrā.
- Plaudite, acta est fābula.
- Solvite corde metum, Teucrī, seclūdite cūrās.
- Vāde certō gradū. Sen.Ep.37
心を支配せよ。
さようなら。そしてお元気で。
その日を摘め。
主よ、我らを導きたまえ。
我々に平和を与えよ。
運命が許す間、喜々として生きよ。
汝、永遠であれ。
estōは「~である」を意味する不規則動詞sum,esse の命令法・未来、2人称単数です。
あなたは自分の運命に満足するがよい。
ハンニバルを秤にかけよ。
おまえたちはこの天界(の光景)をいつも眺め、あの人間世界のもの(光景)を軽蔑するようにせよ。
祈れ、働け。
拍手を。お芝居は終わりだ。
テウクリー人よ、心から恐れを解きなさい。不安を追い払いなさい。
確かな足取りで進みたまえ。
禁止の命令文
「~するな」という禁止を表す場合、nōlī+不定法(2人称単数)、またはnōlīte+不定法(2人称複数)の構文を用います。
- Nōlī mē tangere.
- Nōlīte jūdicāre.
(あなたは)私に触れるな。
(あなたたちは)裁くな。
法律文には、nē+命令法・能動態・未来で禁止を表す表現が見られます。
- Impius nē audētō plācāre dōnīs īram deōrum. Cic.Leg.2.22
不敬な者が、大胆にも神々の怒りを捧げ物で宥めようとしてはならない。
nē+命令法・現在は詩の中などに出てきます。文法書によっては本来の用法ではないと書かれていますが、実際よくお目にかかる表現です。
- Nē frontī crēde.
- Vīve hodiē.
見かけを信じるな。
今日生きよ。
命令法・受動態
命令法の受動態を紹介します。amōを例に取ると次のような形になります。
現在・2人称単数 amāre
現在・2人称複数 amāminī
未来・2人称単数 amātor
未来・2人称複数 ―
未来・3人称単数 amātor
未来・3人称複数 amantor
命令法・受動態・現在の2人称単数は、不定法(能動態・現在)と同じ形です。2人称複数は、受動態の現在、2人称複数の形と同じです。Amāre. は不定法として用いられる場合は「愛すること」ですが、文として出てきたら、「(あなたは)愛されよ」と訳すことになります。一方、Amāminī. は「あなた方は愛される」(直説法・受動態・現在、2人称複数)とするか、「(あなた方は)愛されよ」(命令法・受動態・現在、2人称複数)とするのかは、文脈によって判断することになります。
命令法・受動態・未来は、現在幹(不定法の語尾から-reを取った形)に-torや-ntorを加えて作ります。ただし、第3変化の場合は、現在幹の末尾の母音eをiやuに変えます。例えば、第3変化agōの未来・2人称(3人称)の単数はagitor、3人称複数はaguntorです(能動態・現在、3人称複数の語尾に-orをつけた形と覚えたら早いです)。なお、命令法・受動態・未来は、2人称複数の形を欠いています。
今述べたことは不規則動詞にも当てはまります。dōの命令法・受動態・現在、2人称単数はdare、2人称複数はdaminī、未来の2人称および3人称単数はdator、3人称複数はdantorです。ferōは同じ順にferre、feriminī、fertor、feruntorとなります。
形式受動態動詞の命令法
命令法・受動態を学ぶことで、形式受動態動詞の命令法がわかります。形式受動態動詞の命令法は一般動詞の受動態の命令法と同じです。
形式受動態動詞の命令法の例文
- Vērē ac līberē loquere.
- Sequere nātūram.
- Turne, in tē suprēma salūs, miserēre tuōrum. Verg.Aen.12.653
ありのまま自由に語れ。
自然に従え。
トゥルヌスよ、おまえに最後の希望がかかっている。仲間を憐れむがよい。