形容詞の名詞的用法
文字通り形容詞を名詞として扱う用法です。慣れないうちは面食らいますが、実際のラテン語を読むとあまりに頻出するので、そのうち疑問に思う気持ちがかげをひそめます。
例を挙げましょう。
Bonī amant bonum. 善人は善を愛す。
文頭のbonīは「善人」を意味する名詞として使われています(男性・複数・主格)。動詞amantの目的語bonum(中性・単数・対格)は「善」を意味する抽象名詞としての用例です。その複数形bonaは「財産」を意味します。一方、bonum(善)の反意語malum(悪)は形容詞malus,-a,-um(悪い)を元にしてできた名詞です。
別の例としてRōmānī(ローマ人)があります。この単語の元は「ローマの」を意味する第1・第2変化形容詞Rōmānus,-a,-um です。Rōmānīは男性・複数・主格なので、「ローマの男たち」という意味になりますが、実際には女性も含めた「ローマ人」全体をさします。
英語でもRoman(ローマの)という形容詞を名詞化し、the Romans (ローマ人)と表現できます。ただし、英語には定冠詞がつくので名詞とすぐわかりますが、ラテン語には冠詞そのものがありません。単なる形容詞か、名詞化された形容詞なのか、見分けがつきにくい場合があります。
Ab honestō virum bonum nihil dēterret. cf.Sen.Ep.76.18
いかなるものも立派な人物を正直な行いから遠ざけない。
ab は奪格支配の前置詞です。honestōは形容詞ですが(第1・第2変化形容詞honestus,-a,-um<正直な>)、「正直なこと、行い」という意味の中性名詞として使われています(中性・単数・奪格)。virum bonum はどちらも男性・単数・対格でdēterretの目的語です。nihil(英語のnothing)が主語なので直訳はしづらいですが、「いかなるものも~することはない」と否定文を作ると考えるとよいでしょう。
Multa petentibus dēsunt multa. 多くを求める者には多くのものが足りない。
Multaとmultaが形容詞ながら「多くのもの」を意味する名詞として使われています。
Dum vītant stultī vitia, in contrāria currunt. 愚か者は、悪徳を避けようとして、反対の悪徳へ走り込む。
stultīは第1・第2変化形容詞stultus,-a,-um(愚かな)の名詞的用法です(男性・複数・主格)。
Avārus ipse miseriae causa est suae. 貪欲な者は自らが自分の不幸の原因である。
Avārusは第1・第2変化形容詞avārus,-a,-um(貪欲な)の男性・単数・主格です。ここでは「貪欲な者は」と訳します。
教科書の解説
『しっかり学ぶ初級ラテン語』ではp.42で解説しています。
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