(厳選)おすすめの辞書
羅和辞典(改訂版)
水谷 智洋著、研究社(2009年)。
見出し語は4万5千。新しい時代に相応しい新しい辞書として生まれ変わりました。 紙質も印字も現代的で申し分なく、たいへん引きやすい辞書です。デジタル版もあります。私はPC、スマホ、タブレットにもインストールし、いつでもどこでも調べることができるようにしています。私は日頃カエサルの『ガリア戦記』、ウェルギリウスの『アエネーイス』、キケローの『老年について』、「スキーピオーの夢」、セネカの『人生の短さについて』の講読用資料を作成していますが、語彙面で不足を感じたことはありません。
古典ラテン語辞典
国原吉之助著、大学書林(2005年)。
研究社の「羅和辞典」と比べ、訳のついた例文が充実しています。また、単語の文例に於ける用法(たとえば、「性質の奪格」など)についても、巻末に文法事項を網羅したリストがあり、その説明との照合ができるようになっています。これは学習者にとって画期的なことです。
Cassell’s Latin Dictionary: Latin-English, English-Latin
D. P. Simpson Donald Penistan Simpson, 1977.
ラテン語-英語、英語-ラテン語の辞書です。 用例も載っていて役に立ちます。ある動詞が対格以外の目的語を取る場合、「(dat.)(=与格をとる)」などわかりやすく示してくれているので、学習者にとって親切です。英語からラテン語単語がひけるというのは、実生活で意外に役に立ちます。何か日本語の言葉をラテン語に直したいという時、「日本語–>英語–>ラテン語」の順に言葉を探せばよいでしょう。
Oxford Latin Dictionary (DICTIONARY)
P. G. W. Glare, 1983.
現在望みうるラテン語辞書の最高峰です。略称OLD。用例の宝庫。専門家のお守りみたいな辞書。 ただし、両手を使わないと持ち運べませんので覚悟が必要です。
EPWING for the classics
これは市販されている辞書ではありません。ラテン語学習の最大の困難の1つが「変化形から辞書の見出しの形を見つけること」ですが、リンク先の辞書データを使えばこの悩みから解放されます。
リンク先の「ダウンロードページ」の一番上に「羅英辞典」のリストがあります。2つ目のLewis and Short, A Latin Dictionary を選ぶとよいでしょう。
変化形見出し、検索方法で4つのファイルが選べるようになっています。私は一番下の「変化形見出し」→「あり」、「検索方法」→「前方・後方、クロス、条件」を選んでいます。
元サイトの「はじめに」のところで、ビューワーソフトのリストも載っています。パソコン(Win/Mac)、スマホ(Android/iPhone)、タブレットのどれでも利用可能。気に入ったソフトと組み合わせて、この電子辞書を使いこなしてください。
ウェブの上でLewis & Shortの辞書を検索するにはPerseus の羅英辞典を利用するとよいでしょう。
いろいろ挙げましたが、初心者の方にお勧めの辞書は、内容的にもコスト的にも研究社の『羅和辞典(改訂版)』がベストチョイスです。特に日頃パソコンやスマホにふれる機会の多い方は、そのデジタル版をお勧めします。
(独習者用)おすすめの教科書・問題集
独習用として選んでみます。最初の一冊ということでは、基本から学ぶラテン語(河島思朗)がお勧めです。
次に私の書いた教科書と問題集をご紹介します。これを一冊最後まで終えれば、ラテン語の原典講読は可能です。その狙いもあり、例文と練習問題のほとんどを原典から採っています。
(付録)例文集
教科書に出てくる例文をまとめました(pdf)。
(付録)単語集
教科書に出てくる単語をまとめました(pdf)。
(付録)活用・変化一覧
暗記すべき活用と変化の一覧を纏めました(pdf)。
練習問題は各課に5問ずつあります(10問の課もあります)。問題は精選し、その分解説を懇切丁寧にしています。一つ一つの問題文をじっくり読んで「なるほど」と合点していただくためです。私の主催するラテン語メーリングリストではこの教科書を使った勉強会を開いています。講習会でもこの教科書を使ってラテン語の基礎を身につけてもらっています。
令和5年7月時点では『しっかり身につくラテン語トレーニングブック』を使った勉強会を開いています。
しっかり身につくラテン語トレーニングブック (Basic Language Learning Series)
山下 太郎
この問題集は上の教科書とセットで使っていただくと効果的です(目次は同一なので学びやすいです)。上の教科書で用いたラテン語をベースにした文法の確認問題に加え、羅文和訳の問題が各課10問ずつあり分量的に不足はないでしょう。これを終えると辞書を使って原典講読に挑戦する基礎力ができあがると思います。
はじめてのラテン語
大西英文著、講談社(1997年)、1,015円。
新書版のラテン語入門書です。 第2章まで、ラテン語の例文にはすべて、カナのルビがついています。 一通りラテン語を学んだ人にとっては、本書を拾い読みするだけでも知識の整理になります。 全文がですます調でかかれているので親しみやすいです。 ところどころに脱線話が挿入されていて、肩の力を抜いて読むことが出来ます。
ラテン語初歩
田中利光著、岩波書店(2002年)、3,672円。
無駄のない簡潔な解説と、無理なく取り組める練習問題。質、量ともに、市販されている教科書の中で、もっとも平易な内容になっています。和羅問題は、羅和問題をヒントにすれば自信を持って解答できるように工夫されています。 「新ラテン文法」(松平・国原)や「標準ラテン文法」(中山)その他の教科書同様、解答はついていません。
講読用参考書
ラテン語を読むための本──ラテン語を読む キケロ―「スキーピオーの夢」──を書きました。原文に出てくるすべての単語に文法の説明を施してあります。「しっかり学ぶ初級ラテン語」を一通り最後まで読み終えた人を想定して書いています。
この本は、もともとラテン語講習会の資料として作成し、受講生にお分けしていたものです。現在開講している講読クラス(ウェルギリウス、キケロー、カエサル、セネカ、カエサルなど)は、いずれのクラスも同種の資料を作成し、授業前に配布しています(予習の便宜を図るため)。
ラテン語の作品読解の難しさの半分は文法の解析プロセスにあり、残り半分は文脈を読み取る作業(つまり日本語の読解力が試される作業)だと思います。原文の一字一句を語彙と文法の両面から説明した資料があれば、前者の困難は大幅に軽減され、後者の理解に集中できます。
ラテン語を学ぶ目的は、古典作家との対話だと思います。
カエサルやウェルギリウスとの対話を「じかに」楽しめるよう、以下の図書(kindle版)を出版しました。
ウェルギリウス『アエネーイス』第1巻「序歌」を読む
カエサル『ガリア戦記』第1巻をラテン語で読む
いずれも講習会の資料を基にしています。
追記
辞書・教科書は自分との相性が大事だと思います。上で紹介したのは、(忙しい)初心者の人が原典講読を視野に入れてどのような辞書、教科書を使うと効率よく勉強を進めることが可能かという観点で選択しています。その点でいえば、オックスフォードのラテン語辞書はなくても全然困らないです。
ラテン語作文や外国の著名な文法書、参考書の紹介は省いていますが、それらを使った学習は読解の精度を高めるので、有益です。ただし、あれもこれもと手を出すより、まずは1)教科書を最後まで終えること(=それによって文法用語にも慣れること)、続いて間を置かず、2)原典講読に挑戦することをお勧めしたいので、上のような情報提供となりました。
作文に関心のある方、海外の教材に注目する方は、そもそもスタートから学習の動機づけが高いので、私からとくに何も申し上げることはありません。
コメント
コメント一覧 (2件)
しっかり学ぶ初級ラテン語 p.5 (第8刷)のウェブサイトがwww.kitashirakawa.jpのままになっています。「はじめに」の部分なので最初に書かれたそのままの方がいいのかもしれませんし、ほとんどの方が検索経由で来られるかと思いますので些細な事で申し訳ありませんが、一応お知らせします。
山下です。
ご指摘をありがとうございました。次回訂正するチャンスがあれば訂正したいと思います。