第1・第2変化形容詞

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第1・第2変化形容詞

第1・第2変化形容詞のとらえ方

ラテン語の形容詞は、今から見る第1・第2変化形容詞と第3変化形容詞の2つの種類があります。「第1・第2変化形容詞」は妙な名称だと感じるかもしれません。慣れると当たり前のように感じますが、第1変化形容詞とは、(1) 第1変化名詞rosa,-ae f.(バラ)の変化と同じ変化をし、第2変化形容詞は、(2)第2変化名詞amīcus,-ī m.(友)ならびに第2変化名詞verbum,-ī n.(言葉)の変化と同じ変化をします。

下の表を見ると一目瞭然ですが、bonus,-a,-um(よい)の男性変化は第2変化男性名詞amīcus,-ī m. の変化、女性変化は第1変化女性名詞rosa,-ae f.の変化、中性変化は第2変化中性名詞verbum,-ī n.の変化と一致しています。

下の表を見れば今まで学んだ2種類の名詞変化(第1変化名詞と第2変化名詞)の復習ができると言えます。

第1・第2変化形容詞の変化

中央の女性変化は第1変化名詞、両端の男性変化と中性変化は、それぞれ第2変化名詞の男性名詞と中性名詞の変化と語尾が同じことを確認してください。辞書の見出しには、bonus,bona,bonumとせず、bonus,-a,-umと表記します(女性と中性は語尾のみ示す)。見出しを見ただけで、「この形容詞は第1・第2変化形容詞だ!」と瞬時に気づくことができます。

男性 女性 中性
単数主格 bonus bona bonum
呼格 bone bona bonum
属格 bonī bonae bonī
与格 bonō bonae bonō
対格 bonum bonam bonum
奪格 bonō bonā bonō
複数主・呼格 bonī bonae bona
属格 bonōrum bonārum bonōrum
与格 bonīs bonīs bonīs
対格 bonōs bonās bona
奪格 bonīs bonīs bonīs

第1・第2変化形容詞の練習

変化の形を覚えたら、ラテン語の文法確認用オンラインクイズでその成果を試してください。

ラテン語の形容詞の最重要ポイント

「性・数・格の一致」が大原則です。「せい・すう・かくのいっち」と呪文のように覚えて損はありません。

形容詞は修飾する名詞や代名詞の性・数・格と一致した変化をします。同じ「よい」を意味する形容詞(bonu,-a,-um)でも、修飾する名詞が男性名詞の場合、女性名詞の場合、中性名詞の場合で形を次のように変えます。

Bonus dominus est.(よい主人がいる。/ 彼はよい主人です。)
Bona domina est.(よい女主人がいる。/ 彼女はよい女主人です。)
Bonum verbum est.(よい言葉がある。/ それはよい言葉です。)

(補足)上で示したのは、第1変化名詞(domina)、第2変化名詞(dominus, verbum)と第1・第2変化形容詞(bonus,-a,-um)を組み合わせた例です。その結果、名詞と形容詞の語尾は「同じ」になります。次の例も同様です。

Vērī amīcī rārī. 真の友はまれ。

vērīは第1・第2変化形容詞vērus,-a,-um(真の)の男性・複数・主格。rārīも同じくrārus,-a,-um(まれな)の男性・複数・主格。amīcīは第2変化名詞amīcus,-ī m.(友)の複数・主格。つまり、すべての単語が、「男性・複数・主格」でそろっています。

ラテン語の常、形容詞の位置は名詞の前後どちらもありえます。たとえば、Amīcum bonum habeō.(私はよい友を持っている)のように修飾する名詞の後に置かれることもあります。

形容詞の4つの用法

ラテン語の形容詞には主に4つの用法があります。

名詞を修飾するはたらき(形容詞の属性的用法)

Pāx Rōmāna ローマの平和
(pāx,-ācis f. 平和 Rōmānus,-a,-um ローマの)
形容詞Rōmāna(ローマの)はpāx(平和)にかかります(ともに女性・単数・主格)。このように名詞を修飾する形容詞の働きを属性的(attributive)用法と呼びます。

Amat bonus ōtia Daphnis. Verg.Ecl.5.61 立派なダプニスは閑暇を愛する。
(amō,-āre 愛する bonus,-a,-um よい、立派な ōtium,-iī n. 閑暇 Daphnis,-idis m. ダプニス)
bonusはDaphnis(人名)にかかります(ともに男性・単数・主格)。語順はDaphnis bonusでもかまいません。ōtiaはōtiumの複数・対格でamatの目的語です。

Īra furor brevis est. 怒りは短い狂気である。
brevis は「短い」を意味する第3変化形容詞brevis,-eの男性・単数・主格で、furor にかかります。

「かかる」というのは修飾するという意味です。

述語としてのはたらき(形容詞の述語的用法)

真実の友はまれ(である)。
(vērus,-a,-um 真実の amīcus,-ī m. 友 rārus,-a,-um まれな)
この文で形容詞rārī(男性・複数・主格)は文の述語(predicate)になります。一方、形容詞vērīは主語amīcīにかかります(属性的用法)。動詞suntが省かれています。英語の5文型でいえば、SVCの構文です。すなわち、英語の語順に並べ替えると、Vērī amīcī(S) sunt(V)rārī(C).です。

名詞としてのはたらき(形容詞の名詞的用法)

形容詞は名詞として使われることがあります(その頻度は想像以上に多い)。慣れないうちはこの形容詞の修飾する名詞はどこに?と悩むことになります。以下の例はリンク先に詳しい説明があります。

善人は善を愛す。

いかなるものも立派な人物を正直な行いから遠ざけない。

副詞としてのはたらき(形容詞の副詞的用法)

形容詞は副詞として用いられます。例としてMarcus prīmus vēnit.をどう訳すか考えます。prīmusは第1・第2変化形容詞prīmus,-a,-um(最初の)の男性・単数・主格です。Marcusと性・数・格が一致しています。vēnitはveniō(来る)の完了(=直説法・能動態・完了)です。prīmusをMarcusにかけると、「最初のマルクスはやってきた」となります。2番目のマルクスがいるかのようです。いればよいのですが、いないとします。ここで、Marcusイコールprīmusという関係を念頭に置く時、「マルクス=最初の者として」という直訳ができます。「マルクスは最初の者としてやってきた」とはすなわち、「マルクスは最初にやってきた」という意味です。「最初の」という形容詞を「最初に」と訳すとうまくいくといきます。なお、「マルクスは最初の者」というとらえ方について、ここに「主語と述語の関係」を認め(すなわち、「マルクスは最初の者(である)」という<SVCの>文を念頭に置く形で)、このprīmusのはたらきを形容詞の「述語的」用法と説明する場合もあります。ラテン語の実際の文を読むと、この用例がきわめて多いです。

次に Līberī cantant.をどう訳せばよいかを考えてみます。Līberīは第1・第2変化形容詞lēber,-era,-erum(自由な)の男性・複数・主格です。cantantの主語は「彼らは」(人称代名詞 illī)です。直訳すると、「彼らは自由な心の状態で歌う」となります。「彼らは」イコール「自由な心を持つ状態」とみなしたうえ、「彼らは自由に(自由な心で)歌う」とします。līberīを「歌う」にかかる「副詞」であるかのように訳すのがコツです。

Q. 形容詞の副詞的用法とは?(さらに詳しく解説しています)

ところで、今紹介したlīber,-era,-erumの形を見て「おや?」と思われたのではないでしょうか。これは「第1・第2変化形容詞なのだろうか?」と。答えはイエス。「第1・第2変化形容詞の別形」に当たります。次に補足説明します。

第1・第2変化形容詞の別形

(イ)-erに終わる形容詞līber, -era, -erum (自由な)

男性 女性 中性
単数・主格(呼格) līber lībera līberum
属格 līberī līberae līberī
与格 līberō līberae līberō
対格 bonum bonam bonum
奪格 līberō līberā līberō
複数主・呼格 līberī līberae lībera
属格 līberōrum līberārum līberōrum
与格 līberīs līberīs līberīs
対格 līberōs līberās lībera
奪格 līberīs līberīs liberīs

このタイプの例:

asper,-era,-erum 困難な
miser,-era,-erum 哀れな
prosper,-era,-erum 栄えた
tener,-era,-erum 柔らかい

(ロ)-erに終わる形容詞niger, -gra, -grum (黒い)

男性 女性 中性
単数・主格(呼格) niger nigra nigrum
属格 nigrī nigrae nigrī
与格 nigrō nigrae nigrō
対格 nigrum nigram nigrum
奪格 nigrō nigrā nigrō
複数主・呼格 nigrī nigrae nigra
属格 nigrōrum nigrārum nigrōrum
与格 nigrīs nigrīs nigrīs
対格 nigrōs nigrās nigra
奪格 nigrīs nigrīs nigrīs

このタイプの例:

aeger,-gra,-grum 病気の
pulcher,-chra,-chrum 美しい(pulcer,-cra,-crumの形もある)
ruber,-bra,-brum 赤い
sacer,-cra,-crum 神聖な

上の表を見るとわかる通り、līberは男性・単数・主格がlīberus であるかのように、niger はnigerus であるかのように変化します。ただし、līberは男性・単数・主格の語尾からus が消えるだけですが、niger は単数・属格以下で-erのe も落ちます。つまりnigerの単数・属格はnigrīとなります(nigerīにはなりません)。

所有形容詞

「私の」、「あなたの」といった所有を表すには、所有形容詞を用います(これを「所有代名詞」と呼ぶ教科書もあります)。英語のmyやyour に相当する言葉です。ラテン語の場合、これらの形容詞も格変化します。その変化は上で紹介した第1・第2変化形容詞の変化と同じです。ただしmeusの男性・単数・呼格はmee でなくmīとなります。例えば「わが息子よ」はMī fīlī!です。

1人称単数 meus,-a,-um(私の)
2人称単数 tuus,-a,-um(あなたの)
1人称複数 noster,-tra,-trum(私たちの)
2人称複数 vester,-tra,-trum(あなたたちの)
3人称単数・複数 suus,-a,-um(再帰的)※「彼、彼女、それ、彼ら、それら自身の」となります。

3人称の所有形容詞

所有形容詞の3人称suus,-a,-um(自分自身の)は「再帰的に」使われます。再帰的とは同じ文の中で主語と同じものを指すことをいいます。この用法は英語同様に注意が必要です。例えば、主語が3人称で「彼は/彼らは」と訳せる文中のsuam fīliamは「彼の(彼らの)娘を」ではなく「自分の娘を」と訳します。もし「彼(=主語以外の他人)の娘を」といいたい場合、ラテン語ではējus fīliamとし、「彼ら(=主語以外の他人)の娘を」の場合は、eōrum fīliamとします。ējusは「彼は」を意味する指示代名詞isの単数・属格、eōrumはその複数・属格です。

貪欲な者は自らが自分の不幸の原因である。
(avārus,-a,-um 貪欲な miseria,-ae f. 不幸 causa,-ae f. 原因 ipse: 強意代名詞ipseの男性・単数・主格)
文末のsuaeはsuusの単数・属格でmiseriaeにかかります。suaeは「自分の」と訳します。主語のavārus(貪欲な者=形容詞の名詞的用法)のことです。要するにsuaeは「主語自身の」という意味です。

自分のものが各々にとって美しい。

第1・第2変化形容詞の例文

第1・第2変化形容詞の例文を紹介します。リンク先に詳しい説明があります。なぜこのような日本語になるのかを一度考えたうえで、ご確認ください。

今ここに流れる「時」の贈り物を喜んで受け取るがよい。

貪欲な者は常に欠乏する。

不正な王国はけっして永遠には留まらない。

    • Caesar suās cōpiās in proximum collem subdūcit. Caes.B.G.1.22

CaesarはCaesa,-saris m.(カエサル)の単数・主格です。
suāsは3人称の所有形容詞suus,-a,-umの女性・複数・対格です。cōpiāsにかかります。
cōpiāsはcōpia,-ae f.(豊富、<複数で>軍隊)の複数・対格です。
inは「<対格>に」を意味する前置詞です。
proximumは第1・第2変化形容詞proximus,-a,-um(最も近い)の男性・単数・対格です。collemにかかります。
collemはcollis,-is m.(丘)の単数・対格です。
subdūcitはsubdūcō,-ere(撤退させる)の直説法・能動態・現在、3人称単数です。「歴史的現在」です。
「カエサルは(Caesar)自分の(suās)軍隊を(cōpiās)最も近い(proximum)丘(collem)に(in)撤退させる(subdūcit)」と訳せます。

愚か者は、悪徳を避けようとして、反対の悪徳へ走り込む。

    • Sōlus meārum miseriārum est remedium. Ter.Ad.294

Sōlusは第1・第2変化形容詞sōlus,-a,-um(一人の)の男性・単数・主格です。
meārumは1人称単数の所有形容詞meus,-a,-umの女性・複数・属格です。miseriārumにかかります。
miseriārumはmiseria,-ae f.(苦悩)の複数・属格です。remediumにかかります。
estは不規則動詞sum,esse(である)の直説法・現在、3人称単数です。
remediumはremedium,-ī n.(救済)の単数・主格です。
難しい一文です。文の主語が見えません。Sōlusを無理やり名詞的用法とみなすのも不自然です。ポイントは2つあります。1つ目は、この場合estから「彼は」を補うこと。「彼女は」でも「それは」でもよいのですが、形容詞Sōlusが男性なので、「彼は」とします。ポイントの2つ目は、Sōlusを「述語的に」訳すこと。「彼は一人の状態で」と考え、「彼一人が」という訳を導きます。まとめると、「彼一人が(Sōlus)私の(meārum)苦悩の(miseriārum)救済(remedium)である(est)」となります。

その他

    • 第1・第2変化形容詞を含む例文は本サイトに多数見つかります。リンク先で調べてみてください。タイトルを見ただけで意味がとれたらOKです。

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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