ひととおりラテン語文法の概要がつかめた人にとって、次の一歩をどう踏み出すかについて、私なりに思うことを以下に述べます。
文法を学ぶ目的の一つは原典を読むことだと思います。ラテン語の文法自体に興味を持つ人も多いが、文法はそこそこにして原典の世界に飛び込むのはあり、というか、ラテン語の場合はむしろそれが王道のように思います。
ただし、最初は研究者用の注釈書でなく欧州の高校生向けの教材を使うのが吉です。そういう本には巻末に語彙集がついています。一つの作品に出てくる語彙がすべて網羅されています。一語にいくつもの訳語がある場合、第何節の使い方はこの意味だ、というところまで情報として載っています。
日本でも、入試対策用の古文、漢文の教材というのがあって、この単語は「連用形」だとか、この文での意味はこれこれだ、ということが細かく丁寧に説明されています。要は、その西洋古典バージョンが、今述べた教材だと言えるでしょう。使わぬ手はありません。
カエサルの『ガリア戦記』も巻ごとに(欧米の高校生向けの)注釈書があります。たとえば第5巻46節の”litterīs acceptīs” については、「これはablative absolute。主語に当たるカエサルが「手紙を受け取ると」と訳す」、みたいなことが書かれています。学習者としてablative absolute(日本語訳は「絶対的奪格」)て何だったっけ?と思えば、該当箇所を文法書で調べればよいでしょう。
文法をある程度終えたら、この手の教材を使って丁寧に一冊を最後まで読み終えてください。この場合「丁寧に」という部分が重要です。文法の復習(=知識の穴埋め)を読解を通じて行うやり方なので、丁寧にやらないと意味がありません。個人的には、同じ文法の教科書を二度、三度読み返すより(それも大事だと思いますが)、今述べたやり方のほうが、「自分の読みたい本を読む」という本来の目的に向かって一歩も二歩も近づく自信が得られるように思います。Experientia docet. は真実です。
純粋に文法をより詳しく網羅的に学びたい人の場合、日本で書かれた教材をあれこれ読むより、欧米の文法書を読むことをお勧めしたいと思います。
なお、ラテン語講習会ではキケローの講読クラスを定期的に開催していますので、ご都合があえばぜひご参加下さい。
また、一字一句すべての単語に文法的説明を施した拙著『ラテン語を読む キケロー「スキーピオーの夢」』(ベレ出版)、『カエサル「ガリア戦記」第Ⅰ巻をラテン語で読む』(シリーズ)も独習用にお勧めです。