ラテン語の副詞
副詞は、形容詞を基にして作られる場合と、それ以外の方法で作られる場合に分けることができます。
ラテン語の副詞の分類
1 第1・第2変化形容詞から作られる副詞
(1) 男性・単数・属格の語尾 -īを -ēにかえる例:
形容詞 | 副詞 |
certus 確かな | certē きっと、少なくとも |
lentus 遅い | lentē ゆっくりと |
līber 自由な | līberē 自由に |
rectus 正しい | rectē 正しく |
vērus 真実の | vērē 真実のままに |
Festīnā lentē. ゆっくり急げ。 Suet.Aug.25
(festīnō,-āre 急ぐ lentē ゆっくりと)
Pulchrē, bene, rectē. 美しく、善く、正しく。A.P.428
(2) 男性・単数・属格の語尾 -īを -ōにかえる例:
形容詞 | 副詞 |
cetus 確かな | certē 確かに、正確に |
falsus 誤った | falsō 誤って |
rārus まれな | rārō まれに |
vērus 真実の | vērō 本当に、まったく、しかし |
vērusから作られる副詞はvērō(本当に、まったく、しかし)以外(1)で挙げたvērē(真実のままに)もあり、意味の使い分けが見られます(後で紹介するvērumを入れると厳密には3つです)。certusも同様で、certē(きっと、少なくとも)とcertō(確かに、正確に)は意味が異なります。
Omnia vertuntur: certē vertuntur amōrēs. 万物は流転する。たしかに愛は流転する。(プロペルティウス)
(3)例外:
形容詞 | 副詞 |
bonus よい | bene よく |
malus 悪い | male 悪く |
Bene quī latuit bene vixit. よく隠れる者はよく生きる。(オウィディウス)
Nihil agendō hominēs male agere discunt. 人間は何もなさないことによって、悪く行うことを学ぶ。(コルメッラ)
2 第3変化形容詞から作られる副詞
単数・属格の語尾 -is を-iter(または-ter)にかえる例:
形容詞 | 副詞 |
celer,-eris 速い | celeriter 速く |
fortis,-is 力強い | fortiter 力強く |
prūdens,-entis 賢明な | prūdenter 賢明に |
Sat celeriter fieri quidquid fiat satis bene. じゅうぶん立派にできるものは何であれ、十分早くできあがる。
Citius, altius, fortius. より速く、より高く、より強く。
3 形容詞の中性形から作られる副詞
形容詞の中性・単数・対格が副詞として使われるようになった例:
男性・単数・主格 | 中性・単数・対格=副詞 |
multus 多くの | multum おおいに |
nimius 過度の | nimium (nimis) 過度に |
parvus 少ない | parum 不十分に |
prīmus 第一の | prīmum 第一に |
vērus 本当の | vērum 本当に |
difficilis 難しい | difficile 難しく |
dulcis 甘い | dulce 甘く |
facilis 容易な | facile 容易に |
Qui multum habet, plus cupit. 多く持つ者は、より多く求める。
Facile consilium damus aliis. 我々は他人には容易に助言を与える。
Qui nimium multis ‘non amo’ dicit, amat. あまりに多くの人に「私は愛していない」と言う者は、愛している。
Non qui parum habet, sed qui plus cupit pauper est. より多くを望む者が貧しい。
4 名詞、代名詞から作られる副詞
名詞、代名詞の単数・奪格が副詞として使われるようになった例:
名詞、代名詞の単数・奪格 | 副詞 |
jūs,jūris 法、正義 | jūrē 正当に |
fors,fortis f. 運命 | forte たまたま |
modus,-ī m. 方法、量、大きさ | modō ただ、単に |
vulgus,-ī n. 大衆 | vulgō 一般に |
Nēmō fortūnam jūrē accūsat. 誰も運命を正当に非難できない。
(nēmō 誰も~ない fortūna,-ae f. 運命 accūsō,-āre 非難する)
5 その他の副詞
etiam ~さえ
Etiam hostī est aequus quī habet in consiliō fidem. Syr.188
(自分の)考えに信念を持つ者は敵に対してさえ公正である。
(hostis,-is c. 敵 aequus,-a,-um 公正な consilium,-iī n. 考え fidēs,-eī f. 信頼、信念)
bis 二度
Bis peccat qui crimen negat.
罪を否定する者は二度罪を犯す。
haud まったく~でない
Haud ignōta loquor. Aen.2.91
私は誰もが知っていることを語っている。
(ignōtus,-a,-um 未知の loquor,-ī 語る)
nunc 今
Nunc aut numquam. 今(やる)か決して(やら)ないか。
(numquam 決して~ない aut あるいは)
Omnia nunc rīdent. 万物が今微笑んでいる。(ウェルギリウス)
hodiē 今日、crās 明日
Hodiē, nōn crās. 今日こそ、明日ではなく。
Vīve hodiē. 今日生きよ。
saepe しばしば、何度も
Dēlīberandō saepe perit occāsiō. 163
何度も熟考することによって好機は失われる。
(dēlīberō,-āre 熟考する saepe しばしば、何度も pereō,-īre 消える、失われる occāsiō,-ōnis f. 好機)
vix ほとんど~ない
Amāre et sapere vix deō concēditur. 22
恋することと賢明であることは、神によってほとんど認められていない。
(amō,-āre 愛する sapiō,-ere 賢明である deus,-ī m. 神 concēdō,-ere 許す、認める)
nusquam どこにも~ない
Nusquam est quī ubīque est. Sen.Ep.2.2
どこにでもいる者はどこにもいない。
(ubīque どこにでも)
semper 常に、いつでも、永遠に
Fāma semper vīvat!
名声が永遠に不滅でありますように。
prōtinus ただちに、まっすぐ
Prōtinus vīve.
ただちに生きよ。(セネカ)
ita そのように
Ita vīta.
人生かくのごとし。
hīc ここに
Hīc hasta Aenēae stābat. ここにアエネーアースの槍が立っていた。
形容詞の副詞的用法
形容詞が副詞のように使われる場合があり、これを形容詞の副詞的用法(または述語的用法)と呼びます。基本は直訳を心がけることです。Mārcus prīmus vēnit.をどう訳すか考えてみましょう。prīmusは形容詞で、「最初の」という意味です。vēnitはveniō(来る)の完了です。prīmusをMārcusにかけると、「最初のマールクスはやってきた」となります(これを「形容詞の属性的用法」と呼びます)。これだと二番目のマールクスがいるかのようです。いればよいのですが、いないとします。ここで、形容詞は名詞を修飾するという原則を思い出します。つまり、Mārcus=prīmusという関係を念頭に置く時、「マールクス=最初の者として」という直訳ができます。「マールクスは最初の者としてやってきた」とはすなわち、「マールクスは最初にやってきた」という意味です。「最初の」という形容詞を「最初に」と訳すとうまくいくといきます。
Dōna praesentis cape laetus hōrae. Carm.3.8.27
今ここに流れる「時」の贈り物を喜んで受け取るがよい。
(dōnum,-ī n. 贈り物 praesens,-entis 今の、今ここにある capiō,-ere 取る、受け取る laetus,-a,-um 喜んでいる、嬉しい hōra,-ae f. 時間、時)
laetus(男性・単数・主格)をどう訳すかがポイントです。それ以外の単語を先に整理しましょう。dōna(複数・対格)はcape(capiōの命令法)の目的語で、praesentis…hōrae(女性・単数・属格)がこれを修飾します。文の骨組みは、dōnaを受け取れ(cape)というものですが、capeは2人称単数に対する命令文を作る点に注意します。この時命令される「あなた」(tū)をlaetusが修飾すると考えます(したがってもしtūが女性ならlaetaとなる)。このlaetusを形容詞の副詞的用法と判断する時、「tūイコールlaetusな状態で(=喜んで)dōnaを受け取れ(cape)」と構文を把握することができます。
実際の古典作品を読むと、想像以上の頻度で「形容詞の副詞的用法」は用いられています。
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