「ヒーク・ハスタ・アエネーアエ・スターバト」と読みます。
Hīcは「ここに」を意味する副詞です。
hastaはhasta,-ae f.(槍)の単数・主格です。
AenēaeはAenēās,-ae m.(アエネーアース)の単数・属格です。hastaにかかります。
stābatはstō,-āre(立つ)の直説法・能動態・未完了過去、3人称単数です。
「ここにアエネーアースの槍が立っていた」と訳せます。
ウェルギリウスの『アエネーイス』に見られる表現です(Aen.12.772)。
この詩行を含む個所の訳を紹介します。アエネーアースとトゥルヌスの一騎打ちの場面に出てくる表現です。
766-790
たまたまそこは、ファウヌスの神木で、苦い葉を持つ
野生オリーブの立つ場所だった。かつては船乗りに崇められた木で、
海難から救われた者たちが、奉納品をこれに捧げる習わしがあり、
ラウレントゥムの神への感謝を込めて衣を掛けた。
だが、テウクリア人は見境なくこの聖木を根こそぎ
引き抜き、決戦のため、何もない平原に整えていた。
この切り株にアエネーアースの槍が立っていた。槍はここに勢いよく
突き刺さり、しっかりと根の部分に止まっていた。
アエネーアースは身を屈め、走って捕まえられない相手を槍で
仕留めようとして、腕ずくでこの槍を引き抜こうとした。
このときトゥルヌスは恐怖から必死に祈る。
「ファウヌスよ、お願いだ、わたしに情けをかけよ。至善の大地の女神も槍を
掴んで放さぬよう。わたしはいつもあなた方に犠牲を捧げてきたではないか。
それに対し、アエネーアースの子らは戦争を仕掛け、この敬意を汚したのだ」。
こう言って神の助力を仰いだが、祈りは無駄にはならなかった。
アエネーアースは時間をかけて槍を抜こうと格闘したが、
強い木の根に阻まれ、どれだけ力を加えても、槍をくわえ込む力を
打ち破れずにいた。むきになって奮闘するあいだ、
またもダウヌスの娘たる女神が御者メティスクスに姿を変えて
トゥルヌスの目の前に駆け寄り、兄に大切な剣を届けた。
すると、肝の座ったニンフにこの行為が許されるのに腹を立て、
ウェヌスが近づき、アエネーアースの槍を深い根から引き抜いた。
こうして二人の勇者は武器を手に、闘志を蘇らせてそびえ立つ。
一方は剣を信頼し、他方は槍を高く構えて奮い立ち、
息を弾ませながらマルスの戦いへと立ち向かう。
コメント
コメント一覧 (2件)
山下先生の別のメイリングリストを通したラテン語学習場面で、何度目かのこの表現との再会がありまして、このサイトに行き当たり、あらためてこの部分の表現によってアエネーアースとトゥルヌスの対戦シーンへの臨場感を実感させて頂きました。
アエネーイスのこの hīc Aenēae hasta stābat というラテン語の文言が、その物語の前後関係を知っていることで、映像的なきらめきを持って伝わってきます。
このサイト「ラテン語格言(1119)」の格言[et 格言的な表現も含めて]を通してラテン語に親しむことができています。ラテン語初心者にも中級者にもおそらくは上級者にとっても、格言を介したラテン語の学びの継続は、思いのほか役立っているのではないでしょうか。単に古代の意味や解釈に留まらず、「今・ここ」の自分に引き寄せての解釈も許容して頂き、楽しい気持ちにさせてもらっていることをお伝えしようと、このコメントを書きました。
山下です。励みとなるコメントをお寄せいただき、ありがとうございました。
少しでもお役に立てるよう、少しずつ更新してまいります。
宜しくお願い致します。