語彙と文法
「ウィーウェ・ホディエー」と発音します。
vīve は「生きる」を意味する第3変化動詞 vīvō,-ere の命令法・能動態・現在、2人称単数で、「生きよ」と訳します。
hodiē は副詞で、「今日」を意味します(hōc diēからできた語です)。
あわせて「今日、生きよ」となります。
短い表現ですが、その分メッセージにインパクトがあります。なにより覚えやすいですね。
ローマの詩人マルティアーリスの言葉です(1.15.12)。
Vive hodie.を含むマルティアーリスの詩(1.15-11-12)
ラテン語で「生きる」を意味する一般的な言葉はウィーウォー(vivo)です。「万歳!」を意味するイタリア語の「ビバ(viva)!」という表現や、「生き生きとした」という意味の英単語 vivid もラテン語のウィーウォー(生きる)が語源です。ちなみに、vi- を「ウィ」と発音する点に関しては、ラテン語で「毒」を意味する virus を日本では「ウイルス」と発音することでおなじみです(母音の長短に留意すると「ウィールス」が正式)。
英語圏においては、口頭試験のことを viva voce といいますが、これはラテン語のつづりがそのまま使用される一例です。ちなみに、この表現を直訳すると「生の声で、肉声で」という意味になります。
表題にあげた vive は文法的に言えば命令文で「生きよ」という意味になります。たとえば、Vive memor mortis (死を忘れずに生きよ)のように使います。
vive を用いたマルティアーリスの詩句を紹介します。
non est, crede mihi, sapientis dicere ‘Vivam’;
sera nimis vita est crastina, vive hodie.
わたしを信じたまえ、「こう生きよう」と口にするのは賢者にふさわしくない。
明日の生活はあまりに遠い先にある。今日生きよ。(1.15.11-12)
決意を新たにするというと聞こえはいいのですが、マルティアーリスによれば明日の生き方ではなく、今どう生きるか、どう行動するかが何より大切だと示唆しています。
この詩句についての詳しい分析
上の二行の韻律と語彙・文法の説明は次の通りです。
韻律elegeia
nōn est, | crēde mi | hī, sapi | entis | dīcere | ‘Vīvam’;
sēra ni | mis vī | ta (e)st // crastina, | vīv(e) hodi | ē.
※韻律については『ラテン詩への誘い』(国原吉之助)参照。ただし、同書の解説(cf.p.29)に従えば、vīta estのエリジョンはvīt(a) estとなります。
語彙と文法
nōn: 「~でない」。estを否定。
est: 不規則動詞sum,esse(である)の直説法・現在、3人称単数。
crēde: crēdō,-ere(<与格>を信じる)の命令法・能動態・現在、2人称単数。
mihī: 1人称単数の人称代名詞、与格。
sapientis: sapiens,-entis c.(賢者)の単数・属格。「所有の属格」の述語的用法。nōn est…sapientisで、「賢者の(sapientis)<性質>で(est)ない(nōn)」。sapientisのかかる名詞として、「性質」、「特徴」などの言葉を補って解釈する。
dīcere: dīcō,-ere(言う)の不定法・能動態・現在。中性・単数名詞として扱われ、ここでは文の主語となる。「言うことは」。
Vīvam: vīvō,-ere(生きる)の接続法・能動態・現在、1人称単数。単文における接続法の「意思」の用法。「生きよう」。
sēra: 第1・第2変化形容詞sērus,-a,-um(遅い)の女性・単数・主格。文の補語。
nimis: 「あまりに」。sēraにかかる。
vīta: vīta,-ae f.(生活)の単数・主格。文の主語。
est: 不規則動詞sum,esse(である)の直説法・現在、3人称単数。
crastina: 第1・第2変化形容詞crastinus,-a,-um(明日の)の女性・単数・主格。vītaにかかる。「明日の生活は」。
vīve: vīvō,-ere(生きる)の命令法・能動態・現在、2人称単数。「生きよ」。
hodiē: 「今日」。vīveにかかる。
コメント
コメント一覧 (2件)
[…] Vive hodie. 今日生きよ […]
[…] マルティアーリスにも、「今日生きよ」という言葉があり、人口に膾炙しています。 […]