Pulchre, bene, recte.

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ホラーティウス
ホラーティウス

語彙と文法解説

「プルクレー・ベネ・レクテー」と読みます。
pulchre は「美しく」を意味する副詞です。
bene は「善く」を意味する副詞です。
recte は「正しく」を意味する副詞です。
「美しく、善く、正しく」と訳せます。
ホラーティウスの『詩論』に見られる表現です。

考察

この三語は、ローマの詩人ホラーティウスがその詩論(Ars Poetica, 428行)に記した表現であり、もとは言葉の使い方についての助言として語られたものでした。詩人は言葉を「美しく(pulchre)」「善く(bene)」「正しく(recte)」選ばなければならない。それが、優れた詩を成り立たせる鍵であると述べています。

しかし、この簡潔な三語は、文学理論の枠を超えて、人間の行いすべてに通じる理想としても読み取ることができます。

「美しく」とは、調和と品格を備えた振る舞いを意味し、
「善く」とは、他者を思いやる心から発する倫理性を表し、
「正しく」とは、筋の通った判断と行動を指します。

これら三つは、どれか一つだけでは成り立ちません。正しさだけでは冷たく、善さだけでは甘く、美しさだけでは空虚になりがちです。けれども、この三つがそろうとき、そこには人格の完成された姿が見えてきます。

ホラーティウスの時代、詩とは単なる娯楽ではなく、人を育て、導く力をもつものでした。だからこそ、詩に用いる言葉に求められたのは、技巧よりもまず、「正しさ」「善さ」「美しさ」という倫理と感性の調和だったのです。

現代の私たちも、情報や言葉に満ちた社会の中で、自らの発する言葉や行動が「Pulchrē, bene, rectē」であるかをふと立ち止まって問い直してみる必要があるかもしれません。

美しく、善く、正しく。
ホラーティウスのこの三語には、今なお色褪せない普遍の輝きが宿っています。

関連図書

詩学 (岩波文庫)
アリストテレース ホラーティウス 松本 仁助
4003360494

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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