
語彙と文法解説
「プルクレー・ベネ・レクテー」と読みます。
pulchre は「美しく」を意味する副詞です。
bene は「善く」を意味する副詞です。
recte は「正しく」を意味する副詞です。
「美しく、善く、正しく」と訳せます。
ホラーティウスの『詩論』に見られる表現です。
考察
表題の三語は、ローマの詩人ホラーティウスが『詩論』の中で用いた表現です。一見すると、「美しく、善く、正しく」という格調高い標語のようにも見えますが、実際の文脈は少し意外です。
ホラーティウスがここで描いているのは、詩人にへつらう人物です。裕福な詩人が誰かに贈り物をしたあと、その相手に自作の詩を聞かせる。すると相手は喜びいっぱいになって、
Pulchrē, bene, rectē!
「見事だ、すばらしい、その通り!」
と大げさに褒めるというのです。
しかもホラーティウスは、その人物が顔色を変え、感激の涙を流し、跳びはね、足を踏み鳴らすところまで描いています。もちろん、これは心からの賞賛とは限りません。贈り物をしてくれた相手に気に入られようとして、必要以上に褒めているのです。
この箇所でホラーティウスが問題にしているのは、本当の友人と、おべっか使いを見分けることです。詩人にとって、自分の作品を何でも褒めてくれる人は、一見ありがたい存在に見えます。しかし、作品をよくするために本当に必要なのは、欠点を指摘し、直すべきところを率直に教えてくれる友人です。
このあとホラーティウスは、そうした誠実な批評家の例としてクィーンティリウスを登場させます。彼は詩を聞いて問題があれば、「ここを直したまえ、ここも」と率直に助言したといいます。
「すばらしい、すばらしい」と褒めるだけなら簡単です。しかし、相手のためを思って必要な批判を伝えることの方が、はるかに難しい場合があります。
この三語は、単なる賞賛の言葉としてだけでなく、「耳に心地よい言葉ばかりを信じてよいのか」と問いかける、ホラーティウスらしい皮肉のこもった表現として読むことができます。
関連図書
詩学 (岩波文庫)
アリストテレース ホラーティウス 松本 仁助
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