動名詞について
ラテン語の動名詞は、現在分詞の語尾-nsを-ndumに変えて作ります(amō→amans→amandum)。英語と同じく「~すること」と訳せます。ただし、ラテン語の動名詞は文中での役割に応じて語尾の形を変えます。変化のスタイルは、第2変化の中性名詞(verbum 等)と同じですが、主格(呼格)を除いた単数のみで使われます(複数形はありません)。
Q. 動名詞の主格はなぜないのか?
属格 docendī 教えることの
与格 docendō 教えることに
対格 docendum 教えることを
奪格 docendō 教えることによって
動名詞の属格
動名詞の属格は「~ことの」という意味を持ち、一般名詞の属格と同じ働きをします。
- Scrībendī rectē sapere est et principium et fons.
- Timendī causa est nescīre.
- Pater ipse colendī haud facilem esse viam voluit.
知恵を持つことは、正しく書くことの始まりであり、源泉である。
無知は恐れることの(=恐怖の)原因である。
父(ユッピテル)自ら、耕すことの(=農耕の)道が容易でないことを望んだ。
上から順に、scrībō,-ere(書く)、timeō,-ēre(恐れる)、colō,-ere(耕す)の動名詞、属格が用いられています。
動名詞の与格
動名詞の与格は「~することに」と訳すのが基本です。
- Ego relictīs rēbus Epidicum operam quaerendō dabō.
私は万事後回しにし、エピディクスを探すことに全力を尽くそう。
quaerendōはquaerō,-ere(探す)の動名詞、与格で、dabō(与えるだろう)の間接目的語になっています。
動名詞の対格
動名詞の対格形は常に前置詞と一緒に用います。adとともに副詞句を作る例はよく見られます。
- Ego nullam aetātem ad discendum arbitror immātūram.
- Breve tempus aetātis satis longum est ad bene honestēque vīvendum. Cic.Sen.70
私はいかなる年齢も学ぶのに若すぎることはないと信じる。
人生の短い時間は立派によく生きるには十分長い。
詳しい説明はリンク先でご確認ください。
動名詞の奪格
本来なら動名詞の単数・主格を使うような場合、ラテン語では不定法を用います。例えば、「教えることは学ぶことである」という日本語を英語とラテン語で訳すと次のようになります。
- (ラテン語)Docēre est discere.(教えることは学ぶことである)
- (英語) To teach is to learn. / Teaching is learning. (同上)
英語は動名詞(teachingとlearning)も不定法(to teachとto learn)を使えるのに対し、ラテン語は不定法しか使えません。一方、ラテン語で同じ内容を動名詞を使って表す場合、次のように奪格(~することによって)を使う手があります。
- Docendō discimus. 私たちは教えることによって学ぶ。
- Nihil agendō hominēs male agere discunt.
- Gutta cavat lapidem nōn vī sed saepe cadendō.
- Dēfessus sum ambulandō. Ter.Ad.713
- Audendō virtūs crescit, tardandō timor. Syr.43
- In jūdicandō crīminōsa est celeritās. Syr.293
- Dēsine fāta deum flectī spērāre precandō. Verg.Aen.6.376
- Dēlīberandō saepe perit occāsiō.
- Corpora exercitātiōnum dēfatīgātiōne ingravescunt, animī autem exercendō levantur. Cic.Sen.36
動名詞(奪格)の例文:
人は何もしないことによって、悪い行いを学ぶ。
agendō は動名詞agendum の奪格です。nihil は単数・対格でagendum の目的語です。このように動名詞が目的語を取るのは、動名詞の属格か前置詞を伴わない奪格に限られます(動名詞の対格や与格、または前置詞を伴う奪格で目的語を表す場合、「動形容詞」を用います)。
滴は岩に、力によってではなく、何度も落ちることによって、穴をあける。
私はあちこち歩くことによって疲れた。(ambulandō はambulō,-āre <あちこち歩く>の動名詞、奪格)。
勇気は敢えて行うことによって成長し、恐怖は躊躇することによって成長する。
裁くことにおいて拙速は罪である。
懇願することによって、神々の運命が変えられる(動かされる)ことを希望するな。
好機は熟考することによってしばしば消滅する。
肉体は鍛錬による疲労で重くなるが、精神は鍛えることで軽くなる。
不規則動詞の動名詞
合成動詞も含めsumには動名詞はありません。ferō(運ぶ)の動名詞はferendum、eō(行く)の動名詞はeundum になります。
Fāma crescit eundō. 噂は進むにつれて大きくなる。
eundōはeōの動名詞eundumの奪格です。「進むことによって」と訳せます。この例文の直訳は「噂は進むことによって大きくなる」です。