与格のさまざまな用法

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与格のさまざまな用法

与格(dative)は、「~に」、「~にとって」と訳すのが基本です。

間接目的語の与格

「バラに水を与える」という時の、「バラに」が間接目的語です。これをラテン語にすると、Rosae aquam dō.となります。与格の最も基本的な用例です。

Dōnā nōbīs pācem.
我々に平和を与えたまえ。
(dōnō,-āre 与える pāx,pācis f. 平和)
dōnāはdōnōの命令法、nōbīsは人称代名詞nōsの与格で、間接目的語になります。

Grātiās tibi agō. ありがとう。
grātiāsは第1変化名詞grātia,-ae f.(感謝)の複数・対格です。agōはagō,-ere(行う)の直説法・能動態・現在、1人称単数です。「私はあなたに(tibi)感謝を行う」が直訳です。

Date et dabitur vōbīs. 与えよ、さらば与えられん。

所有の与格

「<主語>は<与格>に<ある>」という構文で用いられる与格を「所有の与格」と呼びます。この構文は、「<与格>は<主語>を『持つ』」と訳し変えることが可能だからです。といっても、与格を普通に「~に」と訳しても意味は通るので、特別身構える必要はありません。なお、この構文で、与格になるのは「人」が基本です。

Spēs mihi est. 私には希望がある。

Nec cōgitandī, Sparse, nec quiescendī in urbe locus est pauperī. Mart.12.57.3-4
スパルススよ、貧乏人には考えたり休息する場所なんて都会にはない(=都会には貧乏人が考えたり休息する場所なんてない)。
(nec A nec B: AもBも~ない cōgitō,-āre 考える quiescō,-ere 休息する urbs,-bis f. 都会 locus,-ī m. 場所 pauper,-eris 貧しい)
pauperīは形容詞の名詞的用法です。cōgitandīとquiescendīはともに動名詞でlocusにかかります。locusはこの文の主語でnecで否定されたestが動詞です。「locusは貧乏人にはない」と訳せますが、「貧乏人はlocusを持っていない」と訳してもかまいません。

目的の与格

dareとともに

日本語で「この本を贈り物にあげる」といいますが、この太字の部分をラテン語では表す場合与格にします。これを「目的の与格」と呼びます。dare(与える)とともに用いられる場合、「~として」と訳すとうまくいきます。

Dōnō dedit. 彼(女)は贈り物として(これを)与えた。
(dōnum,-ī n. 贈り物 dō,-are,dedī,datum 与える)
ラテン語で「謹呈」を意味する省略語のd.d.は、例文の単語の頭文字を取ったものです。何を贈り物にあげたのか、直接目的語は省略されています。これを(hoc等)を補うことができます。

Virtūs sōla neque datur dōnō neque accipitur.
美徳だけは贈り物として与えられたり、受け取られたりしない。
(virtūs,-ūtis f. 美徳 sōlus,-a,-um 単独の neque A neque B: AもBも~ない dō,-are 与える accipiō,-ere 受け取る)

Quid huīc hominī crīminī datis?
君たちはこの人に何を罪として与えるのか(=何の罪を着せるのか)。
crīminīはcrīmen,-minis n.(罪)の単数・与格です。huīc hominīも与格ですが、こちらはdatisの間接目的語としての与格です。

esseとともに

esseとともに用いられる場合、「<与格>のためにある(esse)」と訳せます。

exemplō esse
手本のために存在する(手本になる)
exemplōはexemplum,-ī n.(手本)の単数・与格です。

Cuī bonō est?
それは誰にとって(Cuī)よいことのために(bonō)あるのか(誰のためになるのか)。
Cuīは疑問代名詞quis,quid(誰が、何が)の男性・単数・与格です。「利害関係の与格」です。「誰のために」。bonōはbonum,-ī n.(よいこと)の単数・与格です。

Senectūs litterārum studiīs impedīmentō nōn est.
老年は文学の研究にとって障害のためにない(障害とならない)。

判断者の与格

「~にとって」、「~から見て」、「~の判断では」と訳せます。判断を行う人や物が与格で表されます。

Nihil difficile amantī.
恋する者に困難なし。
(nihil:何も~ない difficilis,-e 困難な amō,-āre 愛する、恋する)
nihilが主語でdifficile(中性・単数・主格)が補語です。amantīはamōの現在分詞amansの男性・単数・与格です。この与格は「~にとって」と訳せます。判断者の与格です。

Amāre juvenī fructus est, crīmen senī.
恋することは若者にとっては果実であり、老人にとっては罪である。

Bonīs omnia bona.
善人にとってはすべてが善い。

関心の与格

人称代名詞に特有の口語的表現です。文にmihiやtibiが添えられ心理的な関心が表現されますが、日本語に訳出する必要はありません(この与格がなくても意味は通じます)。

Quid tibi vīs? Cic.D.O.2.269
君は一体何を望むのか。
vīsは不規則動詞volō,velle(望む)の直説法・能動態・現在、2人称単数です。

共感の与格

体や心を表す名詞に人称代名詞の与格を添えることがあります。例えば、animus mihiは「私の心」を意味します。

Animus mihi dolet. Pl.Merc.388
私の心は痛む。
(animus, -ī m. 心 doleō,-ēre 痛む)

Tuō virō oculī dolent. Ter.Ph.1053
お前の旦那の両目は痛む。
(vir,virī m. 夫 oculus,-ī m. 目)

行為者の与格

動形容詞を使った文では行為者が与格で表されます。

Dīligentia praecipuē colenda est nōbīs. Cic.D.O.2.148
精励は私たちによって何よりも大切にされねばならない。
(dīligentia,-ae f. 精励 praecipuē 何よりも colō,-ere 大切にする)

Aenēās nullī cernitur. Cf. Verg.Aen.1.440
アエネーアースは誰にも見られない。

利害関係の与格

「~のために、~にとって」と訳せます。

Nōn sibi sed patriae.
自分のためでなく、祖国のために。

Apēs nōn sibi mellificant.
蜜蜂は自分たちのために蜜を作らない。

Nōn sibi sōlī nātus est homō.
人は自分のためだけに生まれたのではない。

Justitia omnibus.
すべての人々のために正義はある。

Sōl omnibus lūcet. Petr.100
太陽は万物のために輝く。
omnibusはomnisの中性・複数・与格ですが、この文では名詞として扱われ、「万物のために」と訳せます。
男性・複数・与格とみなし、「万人のために」と訳すことも可能です。

Nōn vītae sed scholae discimus. Sen.Ep.106.12
我々は人生のためでなく学派のために学んでいる。
vītaeとscholaeはともに単数・与格で、どちらも「~のために」と訳せます。vītaeとscholaeを入れ替えた表現でも知られますが、セネカのオリジナルは上の例文の通りです。もちろん、セネカはこのような現状ではいけないと主張しています。

目的語の与格

動詞や形容詞の中には与格を目的語に取るものがあります。

Expertō crēdite. Verg.Aen.11.283
経験者を信じよ。
crēditeは命令法・能動態・現在、2人称複数です。例文でわかるように、与格を目的語に取ります。

Hīs rēbus fugae similem profectiōnem effēcit. Caes.B.G.6.7
このような事柄によって、彼は出発を逃亡に似せた。
effēcitはefficiōの直説法・能動態・完了の3人称単数です。efficiō は「AをBにする」という意味を持ちます。Aに当たるのがprofectiōnem で、Bはsimilem です。形容詞similemは与格を取ります。similem fugaeで「逃亡に似た」という意味になります。

Nōn ignāra malī, miserīs succurrere discō. Verg.Aen.1.630
私は不幸を知らぬことはない。あわれな人々を救うことを学んでいます。
succurrereは与格を取り、「<与格>を救う」という意味を持ちます。

Lēgēs morī serviunt.
法律は習慣に従う。
serviuntは与格(morī)を目的語に取ります。serviōを辞書で引くと、「<与格>に従う」と説明されています。

Somnium mihi adēmit.
それが私から眠りを奪い去った。
adēmit は「<対格>を<与格>から奪う」を意味するadimō,-ereの直説法・能動態・完了、3人称単数です。

しっかり学ぶ初級ラテン語

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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