対格(accusative)のさまざまな用法
対格の基本は他動詞の目的語としての用法です。Amō tē.(私はあなたを愛す)のように、amōの目的語は人称代名詞tūの対格tēを用います。対格は基本的に「~を」と訳せます。
直接目的語
- Stellam videō.
私は星を見る。
尖筆(せんぴつ)は人を明らかにする(文は人なり)
- Crescentem sequitur cūra pecūniam. Hor.Carm.3.16.17
増える金銭の後を不安が追いかける。
(crescō,-ere 成長する sequor,sequī 後を追う cūra,-ae f. 心配 pecūnia,-ae f. 金、金銭)
crescentemはpecūniamにかかる現在分詞、女性・単数・対格です。主語はcūraで形式受動態動詞sequiturはpecūniamを目的語に取ります。
- Studium generat studium, ignāvia ignāviam.
熱意は熱意を、怠惰は怠惰を生む。
studiumはstudium,-ī n.(熱意)の単数・主格と単数・対格が同じ形になります。ignāviaは第1変化名詞ignāvia,-ae f.(怠惰)の単数・主格、ignāviamはその単数・対格です。
同属目的語の対格
自動詞の一部には、同じ種類の名詞を目的語として付け加えることで自動詞の意味を強調することがあります。この目的語を「同属目的語」と呼びます。
- Mīrum atque inscītum somniāvī somnium. Pl.Rud.597
私は不思議で経験したことのない夢を見た。
(mīrus,-a,-um 不思議な atque そして inscītus,-a,-um 未経験の somniō,-āre 夢を見る somnium,-iī n. 夢)
広がりの対格
一種の熟語的用法として、対格は時間や空間の広がりを表します。
- multōs annōs
長年にわたって
(multus,-a,-um 多くの annus,-ī m. 年)
- noctēs et diēs urgērī Cic.D.O.1.260
昼も夜も苦しめられること
(nox,noctis f. 夜 diēs,-ēī m. urgeō,-ēre 苦しめる)
- Ab hīs castrīs oppidum Rēmōrum nōmine Bibrax aberat mīlia passuum octō. Caes.B.G.2.6
レーミー族のビブラクスという町は、この陣営から八マイル離れていた。
(castra,-ōrum n.pl. 陣営 oppidum,-ī n. 町 Rēmī,-ōrum m.pl.レーミー族 nōmine 名前の点で [限定の奪格] absum,abesse 離れている mīlia:千を意味するmilleの複数形で中性扱い passus,-ūs m. 長さの単位)
三つ目の例文でmīliaはmilleの複数・対格です。passuumはpassusの複数・属格でmīliaにかかります(部分の属格)。なお、千パッススが一(ローマ)マイルに相当します。
方向の対格
eōなど、移動の意味を表す動詞とともに用いられる時、対格は目的地を表します。
- Rōmam eō.
私はローマに行く。
(Rōma,-ae f. ローマ eō,īre 行く)
二重対格
doceō(教える)、rogō(尋ねる)など、一部の動詞は二つの対格を目的語に取ります。
- Expediam dictīs, et tē tua fāta docēbō. Verg.Aen.6.759
言葉で説明しよう、そしてあなたに、あなたの運命を教えよう。
(expediō,-īre 説明する dictum,-ī n. 言葉 fātum,-ī n. 運命 doceō,-ēre 教える)
限定の対格
ギリシャ語の影響を受けた表現で、動詞、形容詞等の適用範囲を対格で限定します。「~を、~の点で、~の部分が」という意味を表します。
- Hannibal femur trāgulā graviter ictus cecidit. Liv.21.7.10
ハンニバルは、太ももを投げ槍でひどく打たれ、倒れた。
(femur,femoris n. 太もも trāgula,-ae f. 投げ槍 graviter ひどく īcō(īciō),-ere, īcī,ictum 打つ cadō,-ere,cecidī 落ちる、倒れる)
感嘆の対格
対格のみで感嘆を表す表現があります。
- Mē miserum!
哀れな私よ。
これは主語が男性の時の表現です(形容詞miserumは、男性・単数・対格)。主語が女性の場合、Mē miseram!とします。
間投詞と対格の組み合わせも見られます。
おお惨めな人間の精神よ、おお盲目の心よ。
mentēsは男性名詞mensの複数・対格、pectoraは中性名詞pectusの複数・対格です。どちらも第三変化名詞です。それぞれの名詞を修飾する形容詞miserāsとcaecaが修飾する名詞と性・数・格を一致させている点はいうまでもありません。
対格不定法
対格不定法とは
- Scīmus tē esse honōrātum.
我々はあなたが尊敬すべき人だということを知っている。
(sciō,-īre 知る honōrātus,-a,-um 尊敬すべき)
ラテン語では、不定法の意味上の主語が文の主語と異なる場合、対格になります。これを「対格不定法」と呼びます。この文ではtē(tūの対格)がesseの意味上の主語になり、honōrātum(honōrātusの男性・単数・対格)が補語になります。「tēイコールhonōrātumであること(esse)を我々は知っている(scīmus)」という構文になります。
対格不定法の例文
将軍は立ったまま死ぬのがふさわしい。
私は人間である。人間に関わることで自分に無縁なものは何もないと思う。
おまえは神々が(deōs)これらのことを(haec)おまえのために(tibi)やり遂げるだろうことを(confectūrōs esse)信じたのか(crēdēbās)。
懇願することによって、神々の運命が変えられる(動かされる)ことを希望するな。
いかなる場所も目撃証人なしではない、とあなたは考えるようにせよ。
- Insānus omnīs furere crēdit cēterōs.
狂った者は他人が狂っていると信じている。
- Pater ipse colendī haud facilem esse viam voluit.
父(ユッピテル)自ら、農耕の道が容易でないことを望んだ。
Nōn satis est pulchra esse poemāta; dulcia suntō.
詩は美しいだけでは十分でない。魅力的であらしめよ。
- Sī vīs mē flēre, dolendum est prīmum ipsī tibi.(Hor.A.P.102-103)
もし私が泣くことを君が望むなら、君自身が先に悲しまなければならない
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