西洋古典

楽しむことを学べ:セネカ

2011年6月16日

セネカの言葉です。

Hoc ante omnia fac, mi Lucili : disce gaudere.
わがルキリウスよ、何よりもまずこのことをしなさい。「楽しむことを学べ」

Disce は「学ぶ」を意味する動詞 disco の命令法です。その内容が不定法で示されています。gaudere は gaudeo (楽しむ)の不定法です。

短くとも印象的な表現で、セネカの書簡集に見られる言葉です。楽しむことくらい誰にだってできると思いますが、心底何かに夢中になっているか?と我が身を反省すると、そうでない自分を発見するかもしれません。その意味で、セネカのこの言葉は、鋭い逆説になっています。

ちなみに、梨木香歩氏の『村田エフェンディ滞土録』 の中では、愛すべき鸚鵡が絶妙のタイミングでこの言葉を繰り返し、周囲を驚かせます。

disce (学べ)を用いた格言といえば、Disce aut discede. (学べ、さもなくば去れ)が有名です。disce と discede は発音が重なりあうので印象的に聞こえます。Aut disce, aut discede.の形でも知られます。

Disce libens.という言葉もあります。「喜んで学べ」という意味になります。「楽しく学べ」と訳してもよいでしょう。「楽しむことを」学べというのでなく、「楽しんで」学べという点で表題のラテン語(disce gaudere)とは一味違います。これはアウソニウスの言葉です。

ウェルギリウスに Ab uno disce omnes.(一からすべてを学べ)という言葉があります。原文ではトロイアの落ち武者アエネーアスがトロイ陥落のエピソードを振り返る場面に出てきます。「さあ、ダナイ人の計略を聞いてください。この一つの悪事からすべてを察してください」(『アエネーイス』2巻)。ダナイ人とはギリシア人の別名です。

原文を念頭におく限り、日本語で言う「一を聞いて十を知れ」とは別のニュアンスを持つことがわかります。しかし、現代の欧米人の一般的な解釈(From one, learn all. 等)はむしろこの日本語の意味に近いです。

つまり、2000年の歳月の中で有名になった言葉とは、しばしば本来使われた意味とは異なる意味を持ちながら、現代そして未来に継承されていくように思われます。Ars longa, vita brevis. がそうであるようにです。

村田エフェンディ滞土録
梨木 香歩
4048735136

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