語彙と文法
「アブ・ウーノー・ディスケ・オムネース」と読みます。
Abは「<奪格>から」を意味する前置詞です。
ūnōは代名詞的形容詞ūnus,-a,-um(一つの)の中性・単数・奪格です。
disceはdiscō,-ere(学ぶ)の命令法・能動態・現在、2人称単数です。
omnēsは第3変化形容詞 omnis,-e(すべての)の男性(または女性)・複数・対格です。
ここまでをまとめると、「一つからすべてを学べ」という意味になると考えられますが、ラテン語に慣れた方は、なぜomnia(中性・複数・対格)でなくomnēs(男性 or 女性・複数・対格)なのか、いぶかしく思うでしょう。
原文に照らし、ūnōの後にcrīmine(悪事)、omnēsの後にinsidiās(欺瞞)を補い、「一つの(ūnō)悪事(crīmine)から(Ab)すべての(omnēs)欺瞞を(insidiās)学べ(disce)」と解釈します。
crīmineはcrīmen,crīminis n.の単数・奪格で、crīmenは英語のcrimeの語源です。
insidiāsはinsidia,-ae f.の複数・対格です。
言葉の背景
ウェルギリウスの『アエネーイス』第2巻に見られる表現です。一つの悪事とはトロイア戦争でトロイアを欺いたギリシャ軍の悪事(木馬のエピソード)であり、それをもってギリシャ軍の欺瞞の数々を推し量ってほしい、というメッセージになっています。ただ、現代の欧米社会では、「一を聞いて十を知る」という言葉として引用されるようです。英訳は、”from one, learn all.”など。
元の詩行を紹介します(マクロンは省略)。繰り返しになりますが、ūnōはcrīmine(悪事)にかかる形容詞であることがわかります。なお、omnīsはomnēsの別形です。
Ecce, manus iuuenem interea post terga reuinctum
pastores magno ad regem clamore trahebant
Dardanidae, qui se ignotum uenientibus ultro,
hoc ipsum ut strueret Troiamque aperiret Achiuis, 60
obtulerat, fidens animi atque in utrumque paratus,
seu uersare dolos seu certae occumbere morti.
undique uisendi studio Troiana iuuentus
circumfusa ruit certantque inludere capto.
accipe nunc Danaum insidias et crimine ab uno 65
disce omnis.
見よ、この間、背中の後ろで手をしばられた若者を
ダルダニアの牧人たちが大きな叫び声をあげて、王の前に引き連れてきた。
進んで牧人たちの通る道に不審な男を装って身を差し出し、
そうすることで、トロイアをアカイア人のために開こうとしたのだ。
心は自信に満ち、いずれに対しても覚悟ができていた、
策略で切り抜けるにせよ、確実な死を迎えるにせよ。
一目その姿を見ようと、トロイアの若者たちは四方八方から
取り囲み、捕われた男をこぞってののしった。
さあ、ダナイ人の欺瞞の数々を聞いて欲しい。一つの悪事から
すべて(の欺瞞)を推しはかっていただきたい。
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