西洋古典 訳と解説

セネカ『倫理書簡集』23.2-3を読む:楽しむことを学べ

2020年10月31日

セネカ『倫理書簡集』23.2-3を読む:楽しむことを学べ

Ego vērō aliquid quod et mihi et tibi prōdesse possit scrībam.

Ego: 1人称単数の人称代名詞、主格。「私は」。
vērō: だが
aliquid: 不定代名詞aliquis,aliqua,aliquid(誰か、何か)の中性・単数・対格。
quod: 関係代名詞quī,quae,quodの中性・単数・主格。possitの主語。
et: 「そして」。et A et B(AもBも)の構文における1つ目のet。
mihi: 1人称単数の人称代名詞、与格。
et: 「そして」。et A et B(AもBも)の構文における2つ目のet。
tibi: 2人称単数の人称代名詞、与格。
prōdesse: prōsum,prōdesse(役に立つ)の不定法・能動態・現在。
possit: 不規則動詞possum,posse(~できる)の接続法・能動態・現在、3人称単数。
scrībam: scrībō,-ere(書く)の接続法・能動態・現在、1人称単数。「意志」を表す用法。

<逐語訳>
だが(vērō)私は(Ego)私に(mihi)も(et)君に(tibi)も(et)役に立つことが(prōdesse)可能である(possit)ところの(quod)何かを(aliquid)書こう(scrībam)。

Quid autem id erit nisi ut tē exhorter ad bonam mentem?

Quid: 疑問代名詞quis,quid(誰、何)の中性・単数・主格。
autem: しかるに
id: 指示代名詞is,ea,id(それ)の中性・単数・主格。「しかるに(autem)それは(id)何(Quid)であるだろうか(erit)」。
erit: 不規則動詞sum,esse(である)の直説法・未来、3人称単数。
nisi: (ut以下)以外
ut: (名詞節を導き)「~すること」。nisi ut...で「ut以下以外」。
tē: 2人称単数の人称代名詞、対格。exhorterの目的語。
exhorter: 形式受動態動詞exhortor,-ārī(奨励する)の接続法・現在、1人称単数。
ad: <対格>に
bonam: 第1・第2変化形容詞bonus,-a,-um(よい)の女性・単数・対格。mentemにかかる。
mentem: mens,mentis f.(心)の単数・対格。

<逐語訳>
しかるに(autem)それは(id)私が君を(tē)よい(bonam)心(mentem)に(ad)奨励する(exhorter)こと(ut)以外(nisi)何(Quid)であるだろうか(erit)。

Hūius fundāmentum quod sit quaeris?

Hūius=Hūjus: 指示代名詞hic,haec,hoc(これ)の女性・単数・属格。fundāmentumにかかる。「これの」。前の行のbonam mentemを指す。
fundāmentum: fundāmentum,-ī n.(基礎)の単数・主格。間接疑問文の主語。
quod: 疑問形容詞quī,quae,quod(どの、何の、どのような)
sit: 不規則動詞sum,esse(である)の接続法・現在、3人称単数。間接疑問文における接続法。
quaeris: quaerō,-ere(尋ねる)の直説法・能動態・現在、2人称単数。

<逐語訳>
この(Hūius)基礎は(fundāmentum)どのようなもの(quod)である(sit)か、と君は尋ねる(quaeris)か。

nē gaudeās vānīs.

nē: (接続法を伴い)「~するな」。nē gaudeāsで「喜ぶな」。
gaudeās: gaudeō,-ēre(喜ぶ)の接続法・能動態・現在、2人称単数。
vānīs: vānum,-ī n.(無益なもの)の複数・奪格(「手段の奪格」)。日本語では「無益なものを喜ぶな」が自然。

<逐語訳>
無益なものによって(vānīs)喜ぶ(gaudeās)な(nē)。

Fundāmentum hoc esse dixī: culmen est.

Fundāmentum: fundāmentum,-ī n.(基礎)の単数・対格。
hoc: 指示代名詞hic,haec,hoc(これ)の中性・単数・対格。不定法句の意味上の主語(「対格不定法」)。
esse: 不規則動詞sum,esse(である)の不定法・現在。
dixī: dīcō,-ere(言う)の直説法・能動態・完了、1人称単数。
culmen: culmen,-minis n.(頂上)の単数・主格。文の補語。
est: 不規則動詞sum,esse(である)の直説法・現在、3人称単数。

<逐語訳>
これが(hoc)基礎(Fundāmentum)であると(esse)私は言った(dixī)。それは頂上(culmen)である(est)。

Ad summa pervēnit quī scit quō gaudeat, quī fēlīcitātem suam in aliēnā potestāte nōn posuit;

Ad: <対格>に
summa: 第1・第2変化形容詞summus,-a,-um(頂上の)の中性・複数・対格。名詞的に用いられ、「頂上」を意味する。
pervēnit: perveniō,-īre(到着する)の直説法・能動態・完了、3人称単数。
quī: 関係代名詞quī,quae,quodの男性・単数・主格。先行詞は省略。「~するところの人は」。
scit: sciō,-īre(知る)の直説法・能動態・現在、3人称単数。
quō: 疑問代名詞quis,quid(誰、何)の中性・単数・奪格。「何によって」。
gaudeat: gaudeō,-ēre(喜ぶ)の接続法・能動態・現在、3人称単数。間接疑問文における接続法。
quī: 関係代名詞quī,quae,quodの男性・単数・主格。先行詞は省略。「~するところの人は」。
fēlīcitātem: fēlīcitās,-ātis f.(幸福)の単数・対格。
suam: 3人称の所有形容詞suus,-a,-umの女性・単数・対格。fēlīcitātemにかかる。
in: <奪格>に
aliēnā: 第1・第2変化形容詞aliēnus,-a,-um(他の、他人の)の女性・単数・奪格。potestāteにかかる。
potestāte: potestās,-ātis f.(影響力、権限)の単数・奪格。
nōn: 「~でない」。posuitを否定。
posuit: pōnō,-ere(置く)の直説法・能動態・完了、3人称単数。

<逐語訳>
何によって(quō)喜ぶべきか(gaudeat)を知る(scit)ところの(quī)者、自分の(suam)幸福を(fēlīcitātem)他人の(aliēnā)権限(potestāte)に(in)置かなかった(nōn posuit)ところの(quī)者は、頂上(summa)に(Ad)到着した(pervēnit)(といえる)。

... [3] Hoc ante omnia fac, mī Lūcīlī: disce gaudēre.

Hoc: 指示代名詞hic,haec,hoc(これ)の中性・単数・対格。
ante: <対格>より前に、先んじて
omnia: 第3変化形容詞omnis,-e(すべての)の中性・複数・対格。「すべてのこと」。
fac: faciō,-ere(行う)の命令法・能動態・現在、2人称単数。
mī: 1人称単数の所有形容詞、男性・単数・呼格。Lūcīlīにかかる。
Lūcīlī: Lūcīlius,-ī m.(ルーキーリウス)の単数・呼格。
disce: discō,-ere(学ぶ)の命令法・能動態・現在、2人称単数。
gaudēre: gaudeō,-ēre(楽しむ)の不定法・能動態・現在。

<逐語訳>
これを(Hoc)すべてのこと(omnia)の前に(ante)行え(fac)、わが(mī)ルーキーリウスよ(Lūcīlī)。楽しむことを(gaudēre)学べ(disce)。

<和訳>
私はなにか私にも君にも役に立ちうることを書こう。だが、君を励まして立派な精神へ向かわせること以外に何を書くことがあろう。立派な精神の土台とはどんなものか、とお尋ねかな。虚妄に喜ばぬことだ。これが土台だと私は言ったが、それは天辺だ。頂上に到達した人とは、自分が何に喜ぶべきか知つている人、自分の幸せを他人の支配下に置いたことのない人だ。(人が思い悩み、心が定まらないのは、なにかを期待して気持ちが突き動かされるからだ。それは手近な期待でも、困難なことを目指していなくても、期待を裏切られたことが一度もなくてもそうだ)。わがルーキーリウスよ、君がまず第一になすべきは、喜び方を学ぶことだ。(高橋宏幸訳、岩波書店)

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