形容詞の比較級
「比較」とは文字通りAとBを比較する表現です。「AはBより長い」といいたい時、ラテン語では「長い」に当たる第1・第2変化形容詞longusを比較級longiorに直して用います。
- Nīlus longior est quam Rhēnus.
- Nīlus longior est Rhēnō.
Nīlus,-ī m.(ニールス、ナイル川)とRhēnus,-ī m.(レーヌス川、ライン川)の長さを比較しています。上の2つのラテン語はいずれも「ナイル川はライン川より長い」という意味を表します。
日本語訳の「より」に当たる部分は、接続詞quamです(例文1)。この時比較されるAとBはどちらも同じ格に置かれます(NīlusとRhēnusはともに主格)。例文2のように、「Bよりも」に当たる表現を奪格形で表すこともできます(ただしBが主格か対格の場合に限られます)。これを「比較の奪格」と呼びます。
- Bが主格か対格という意味がよくわかりません。
-
上の例文1が示すように、B(=ライン川)はAと同じく本来主格になるはずです。quamを使う場合は主格のまま、使わない場合は奪格にしてもよいということです。
次にBが対格の例を紹介します。これは本来AもBも対格になる例ということです。Vīdit flūmen latius Rhodanō.(彼はロダヌス(ローヌ)川より広い川を見た)において、Aはflūmenです。これはflūmen,-minis n.(川)の単数・対格です。BはRhodanōで、Rhodanus,-ī m.(ロダヌス川)の単数・奪格です。quamを用いた場合、Vīdit flūmen latius quam Rhodanum.です。この場合、A(flūmen)もB(Rhodanum)も共に対格であることがわかります。
英語で形容詞の語尾に-erをつけるように、ラテン語では形容詞の語尾に-iorをつけて比較級を作りますが、これは男・女性・単数・主格の形で、中性・単数・主格は-iusをつけます。単数・属格は-iōrisをつけます。ラテン語の比較級は第3変化形容詞(子音幹変化)に準じて次のように変化します。
longior,-ius (より長い)の変化
男・女性 | 中性 | |
単数・主格(呼格) | longior | longius |
属格 | longiōris | longiōris |
与格 | longiōrī | longiōrī |
対格 | longiōrem | longius |
奪格 | longiōre (-ī) | longiōre (-ī) |
複数・主格(呼格) | longiōrēs | longiōra |
属格 | longiōrum | longiōrum |
与格 | longiōribus | longiōribus |
対格 | longiōrēs | longiōra |
奪格 | longiōribus | longiōribus |
形容詞の比較級の作り方
形容詞の単数・属格の語尾(-īまたは-is)の代わりに-ior(男・女性)、-ius(中性)をつけます。
longus(長い) → longior, longius(より長い)
brevis(短い) → brevior, brevius(より短い)
audāx(勇敢な) → audācior, audācius(より勇敢な)
形容詞の不規則な比較級
不規則な例は辞書に特記されていますので、一つ一つ確認するようにしていきます。主立ったものは次の通りです。
bonus(よい) → melior,melius(よりよい)
malus(悪い) → pējor,pējus(より悪い)
magnus(大きい) → mājor,mājus(より大きい)
parvus(小さい) → minor,minus(より小さい)
比較級の例文
Dolor animī gravior est quam corporis. Syr.166
心の痛みは肉体の痛みより重い。
(dolor,-ōris 苦痛、痛み animus,-ī m. 心、精神 gravis,-e 重い corpus,-oris n. 肉体)
この文ではdolor animī(心の痛み)とdolor corporis(肉体の痛み)が比べられています。後者のdolorは文中では省略されています。比較されるAとBがともに主格となる例です。quamが用いられ、前者が後者に比べて「より重い」(gravior)と表現されています。
Pējor odiō amōris simulātiō. 愛の見せかけは憎しみより悪い。
(pējor=pēior <malus 悪い odium,-iī n. 憎しみ amor,-ōris m. 愛 simulātiō,-ōnis f. 見せかけ)
主語は文末のsimulātiōでpējor(malusの比較級)が補語です。odiōは、これ1語で「憎しみ(odium)よりも」を意味します(比較の奪格)。動詞estが省略されています。
形容詞の最上級
形容詞の単数・属格の語尾(-īまたは-is)の代わりに-issimus,-a,-umを添えます。この語尾の形でわかるとおり、形容詞の最上級はbonus,-a,-umと同じ変化をします。
longus(長い) → longissimus(最も長い)
brevis(短い) → brevissimus(最も短い)
audāx(勇敢な) → audācissimus(最も勇敢な)
形容詞の不規則な最上級
不規則な最上級の例のうち主立ったものを挙げます。ここでは重複を避けるため原級と最上級の形しか載せませんが、ご自分の手で原級、比較級、最上級の形を順に書いて覚えて下さい。
bonus(よい) → optimus(最もよい)
malus(悪い) → pessimus(最も悪い)
magnus(大きい) → maximus(最も大きい)
parvus(小さい) → minimus(最も小さい)
また、次の6語(原形が -ilis,-ileで終わる第3変化の形容詞の一部)は-issimus でなく-limus を添えます。例えば、facilisの場合、比較級はfacil-iorですが、最上級はfacil-limusとします。
facilis 容易な difficilis 難しい similis 似ている
dissimilis 似ていない gracilis 細長い humilis 卑しい
形容詞の最上級の例文
Famēs est optimus coquus. 空腹は最良の料理人である。
(famēs,-is f. 空腹 coquus,-ī m. 料理人)
optimusはbonusの最上級としてcoquusを修飾しています(ともに男性・単数・主格)。
Externus hostis maximum in urbe concordiae vinculum.
外国の敵は都市の調和の最大の絆である。
maximumはmagnusの最上級としてvinculumにかかります(ともに中性・単数・主格)。
Altissima quaeque flūmina minimō sonō lābuntur.
きわめて深い川はめいめい最小の音で流れる。
Altissimaはaltusの最上級としてflūminaにかかります(ともに中性・複数・主格)。minimōはparvusの最上級としてsonōにかかります(ともに男性・単数・奪格)。
「~の中で一番」の表現
複数・属格か、inter(~の中で)などの前置詞を用いる時、最上級の意味に限定が加えられます。
Hōrum omnium fortissimī sunt Belgae. Caes.B.G.1.1
これらすべての(部族の)中で最も勇猛なのがベルガエ族である。
(hōrum<hic [指示代名詞] omnis,-e すべての fortis,-e 強い、勇猛な Belgae,-ārum m.pl. ベルガエ族)
hōrumはhic(これ)の複数・属格ですが、「~のうちで、~の中で」という意味を持ち、最上級fortissimīの意味を限定しています。この属格の用法を「部分の属格」と呼びます。
絶対的用法
比較級、最上級を問わず、何かとくらべることなく単独で用いられる場合があります。絶対的用法と呼ばれるもので、形容詞や副詞の意味を強調する働きをします。
Altissima quaeque flūmina minimō sonō lābuntur. cf.Curt.7.4
深い川はめいめいほとんど音も立てずに流れる。
(altus,-a,-um 深い quaeque<quisque めいめい flūmen,-minis n. 川 minimō<parvus 小さい sonus,-ī m. 音 lābor,-ī 流れる)
altissimaはaltusの最上級でflūminaを修飾します(中性・複数・主格)。altissima flūminaは、本当に川の深さを測って「一番深い川」というのではなく、絶対的な意味で「深い川」を表すものです。minimōはsonōにかかり、直訳では「最も小さい音によって」となりますが、これも絶対的用法と判断し、「限りなく小さい音で」と解釈します。
Gravissima est probī hominis īracundia. Syr.230
高潔な人間の怒りは極めて甚だしい。
(gravis,-e 重い、甚だしい probus,-a,-um 正しい、高潔な homō,-minis c. 人間 īracundia,-ae f. 怒り)
主語はīracundiaで、文頭のgravissimaは補語になります。gravissimaはgravisの最上級ですが、絶対的用法の例とみなせます。
比較級を用いた最上級
「A以上にBなものは何もない」といういい方をすることで、結果的に「Aが一番Bな状態である」と伝える構文があります。
Nihil est virtūte amābilius. Cic.Amic.28
美徳以上に愛すべきものはない。
(virtūs,-ūtis f. 美徳 amābilis,-e 愛すべき)
nihil(=nothing)が主語でamābilisの比較級amābilius(中性・単数・主格)が補語です。virtūteは比較の奪格です。
類例をもう一つ挙げます。比較の奪格の代わりにquam+不定法が使われる例です。
Nihil est difficilius quam bene imperāre.
よく支配すること以上に難しいことはない。
(difficilis,-e 難しい bene よく、うまく imperō,-āre 支配する)
nihilを英語のnothing、quamをthanに置き換えれば、構文を容易に理解できるでしょう。
副詞の比較級と最上級
副詞の比較級は、形容詞の比較級の中性・単数・対格(語尾が-iusで終わる形)を用います。
citus(速い) → citius(より速く)
altus(高い) → altius(より高く)
fortis(強い) → fortius(より強く)
副詞の最上級は、形容詞の最上級の語尾-usを-ēに変えて作ります。altus(高い)を例に取ると、形容詞の最上級はaltissimus(最も高い)ですが、語尾の-usを-ēに変えると、副詞の最上級altissimē(最も高く)が得られます。
citus(速い) →citissimus(最も速い) →citissimē(最も速く)
altus(高い) →altissimus(最も高い) →altissimē(最も高く)
fortis(強い) →fortissimus(最も強い) →fortissimē(最も強く)
不規則な変化をする形容詞も、その最上級の形さえわかれば、一般の形容詞と同じく語尾を-ēに変えるだけです。bonus(よい)を例に取ると、その最上級はoptimus(最もよい)ですが、副詞の最上級は、語尾の-usを-ēに変えた形、すなわちoptimē(最もよく)になります。
ただし、そもそもbonusの比較級がmelior(m.f.)とmelius(n.)になることや(この中性形が副詞の比較級に相当)、最上級がoptimusになることについては、個別に暗記しなければなりません。まずは次の3つを覚えましょう。
bene(よく) →melius(よりよく) →optimē(最もよく)
male(悪く) →pējus(より悪く) →pessimē(最も悪く)
multum(大いに)→plūs(より大きく) →plūrimum(最も大きく)
次に、magis(いっそう)とminus(より少なく)の2つです。それぞれ英語のmoreとlessに相当するといえば、その重要性がおわかり頂けるでしょう。
magis(いっそう大きく) →maximē(最も大きく)
minus(より小さく) →minimē(最も小さく)
※magisは形容詞magnus(大きい)から、minusはparvus(小さい)からできた副詞の比較級ですが、その原級に当たる副詞の形はありません。
副詞の比較級と最上級の例文
Plūs apud mē antiquōrum auctoritās valet. Cic.Amic.13
私には昔の人々の影響の方がより大きな力を持つ。
(plūs<multum 大いに apud <対格>のそばで、の中で antiquī,-ōrum m.pl.昔の人々 auctoritās,-ātis f. 影響力、権威 valeō,-ēre 力を持つ)
副詞plūsは、multumの比較級としてvaletにかかります。訳例の該当箇所を直訳すると、「より大きく力を持つ」となります。
Parēs cum paribus facillimē congregantur. Cic.Sen.7
似た者は似た者と最も容易に集まる。
(pār,paris 似ている cum <奪格>と facilē 容易に congregō,-āre 集める)
形容詞facilis(容易な)の最上級はfacillimus(最も容易な)です。この最上級の形がわかればfacillimēを得るのは容易です(語尾の-usを-ēに変えるのみ)。 この課は特に細かい規則がたくさん出てきて最初は誰もが面食らいます。日頃から気になる形の1つ1つを辞書で確認することと、時間のある時に暗記すべきことを紙にまとめ、記憶の整理をするとよいでしょう
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