Rara juvant. 珍しきものが喜ばれる

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Martialis

語彙と文法

「ラーラ・ユウァント」と読みます。
Rāraは第1・第2変化形容詞rārus,-a,-um (珍しい)の中性・複数・主格で、文の主語です。形容詞ですが名詞的に用いられています(「形容詞の名詞的用法」)。
juvantはjuvō,-āre(喜ばせる、楽しませる)の直説法・能動態・現在、3人称複数です。
目的語は省略されています。
「珍しいものは(人の心を)楽しませる」という意味です。
マルティアーリスの『エピグラム』(4.29.3)に見られる言葉です。

文献案内

Epigrams, Volume I: Spectacles, Books 1-5 (Loeb Classical Library)
Martial D. R. Shackleton Bailey


珍しきものが喜ばれる:マルティアーリス

マルティアーリスはエピグラムと呼ばれる短い詩を得意としました。表題の言葉は次の詩に出てきます。

rāra iuvant: prīmīs sīc mājor grātia pōmīs,
hībernae pretium sīc meruēre rosae.
珍しきものが喜ばれるのだ。林檎も初物ならいっそうよいし、
冬の薔薇なぞ、そりゃあ高値を呼ぶ。
マルティアーリス『エピグラム』第四巻29,3(柳沼重剛訳)

主語に当たる rāra は英語の rare(珍しい)の語源です。ラテン語の辞書には rārus,-a,-um の形で載っています(第1・第2変化形容詞)。 元来形容詞ですが、ここでは名詞として用いられています。形容詞の名詞的用法と呼ばれるもので、ちょっとした初学者泣かせの用法です。

動詞の iuvant(=juvant) は「喜ばせる、楽しませる」という意味の他、「助ける、救う」という意味を持ちます(辞書ではjuvō,-āreで見つかります)。

用例としては、 Audentīs Fortuna iuvat.(運命の女神は勇敢な者たちを助ける)という格言を紹介します。この例でわかるとおり、iuvō(=juvō) は他動詞なので、audentīs (勇敢な者たちを)のような目的語を伴うのが本来です。一方、表題の Rāra iuvant.は表現上目的語を省略し、簡略化しています。ラテン語、特に韻文や格言的表現ではよくあることです。

「珍しいものは(人を)喜ばせる」と直訳してもよいのですが、意味をくんで「珍しいものが喜ばれる」と訳すわけです。

このように rāra iuvant. は、たった二語ですが、ラテン語らしい凝縮された表現であることがわかります。

残りの部分を解説します。

prīmīs: 第1・第2変化形容詞prīmus,-a,-um(最初の)の中性・複数・与格。
sīc: そのように、今述べた通り(Rāra juvant.という趣旨と同様に)
mājor: 第1・第2変化形容詞magnus,-a,-um(大きい)の比較級、mājor,-ius(より大きい)の女性・単数・主格。grātiaと性・数・格が一致。
grātia: grātia,-ae f.(魅力、ありがたさ)の単数・主格。動詞estを補って解釈する。
pōmīs: pōmum,-ī n.(果物、リンゴ)の複数・与格。「所有の与格」。
hībernae: 第1・第2変化形容詞hībernus,-a,-um(冬の)の女性・複数・主格。rosaeにかかる。
pretium: pretium,-ī n.(価値、値打ち、高い評価)
sīc: そのように、今述べた通り
meruēre: mereō,-ēre(<対格>に値する)の直説法・能動態・完了、3人称複数。現在完了、または、普遍的真理を表す完了の用例(「格言的完了」)。「~値して今に至る」、または、「~値するものである」。
rosae: rosa,-ae f.(バラ)の複数・主格。

<逐語訳>
今述べたとおり(=珍しいものが喜ばれるように)(sīc)、最初の(prīmīs)リンゴには(pōmīs)より大きな(māior)ありがたさが(grātia)ある(est)。冬の(hībernae)バラは(rosae)今述べた通り(sīc)高い評価(pretium)に値する(meruēre)。

Martialis

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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