語彙と文法
「オムニス・ハベト・スア・ドーナ・ディエース」と読みます。
omnis は「すべて」を意味する第3変化形容詞 omnis,-e の男性(または女性)・単数・主格で diēs にかかります。
habet は「もつ」を意味する第2変化動詞habeō,-ēre の直説法・能動態・現在、3人称単数です。
sua は3人称の所有形容詞suus,-a,-um の中性・複数・対格で dōna にかかります。
dōna は「贈り物」を意味する第2変化名詞 dōnum,-ī n. の複数・対格で、habet の目的語になっています。
diēs は「日」を意味する第5変化名詞 diēs,-ēī c. の単数・主格です。男性名詞としても女性名詞としても使われます。この文ではdiēsの性はわかりません。同時にこの語を修飾する形容詞omnisも性は不明です。第3変化形容詞omnis,-eは男性も女性も同形です。
「すべての日は、それ自身の贈り物をもっている。」という意味になります。
ローマの詩人マルティアーリスの言葉です(8.78.7)。
第3変化形容詞はomnisの変化を覚えると見通しが開けます。
日々是好日
マルティアーリスの詩に見られる言葉です(8.78.7)。韻律の都合もあり、語順は少し変則的です。文頭の omnis (すべての)が文末の dies (日)を修飾し、動詞の habet(持つ)と目的語の sua dona (それ自身の贈り物を)を包み込む形になっています。
「一日」が擬人化され、私たち人間に毎日新しい贈り物をプレゼントしてくれるというイメージが示されています。一日、一日、その日の贈り物があるという認識は、私たちの心を前向きにしてくれます。「今日はどんな贈り物があるのかな?」と素直な子どものような気持ちで朝を迎えることができます。
「贈り物」を受け取る人間は一見「受け身」の立場にあるように見えますが、そうではありません。この言葉をすてきだと感じ、素直な気持ちで「人生の恵み」に感謝できるかどうかは人それぞれです。
一見嫌なこと、つらいことに見舞われても、それらを苦しみとして排除する人もいれば、試練として受け入れ、乗り越える勇気を持つ人もいます。平凡に見える日常の中にも、大事なことに気づくきっかけを発見する人もいますし、たいくつだとため息をつく人もいます。日々の「贈り物」は「受け手」となる人を選ぶということです。
ラテン語では「カルペ・ディエム」に通じる言葉と言えますが、禅語の「日々是好日」を思い出すこともできます。
文献案内
マルティアーリスの詩は次のローブ版で読むことができます。羅英の対訳です。
Epigrams, Volume I: Spectacles, Books 1-5 (Loeb Classical Library)
Martial D. R. Shackleton Bailey
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