語彙と文法
「ウルプス・アンティークゥァ・フイト」と読みます。
マクロンをつけるとUrbs antīqua fuit.となります。
Urbsは第3変化名詞urbs,urbis f.(都市、都)の単数・主格です。この文の主語です。
antīquaは第1・第2変化形容詞antīquus,-a,-um(古い)の女性・単数・主格です。Urbsにかかります。
fuitは不規則動詞sum,esse(ある)の直説法・完了、3人称単数です。文の動詞です。
「古い(antīqua)都が(Urbs)あった(fuit)」と訳せます。
ウェルギリウスの『アエネーイス』に見られる表現です(Verg.Aen.1.12)。
第3変化名詞urbs,urbis f.(都)の変化は次の通りです。urbs,urbis,urbī,urbem,urbe
urbēs,urbium, urbibus,urbīs(urbēs),urbibus
※単数は子音幹のように、複数はi幹のように混合した変化をします。
不規則動詞sum,esse(である、ある、いる)の直説法・能動態・完了の変化は、fuī,fuistī,fuit,fuimus,fuistis,fuērunt(fuēre)となります。
おまけ
Aen.1.12-33の試訳
古い都があった。テュロス(*)からの植民者が住み、カルターゴー(*)と
呼ばれていた。イタリアに面し、ティベリス(*)の河口をはるかに望むこの都は、
豊かな財力を誇っていた。国民の戦闘意欲は旺盛で、きわめて残忍であった。
ユーノーは世界でただ一つ、この国を寵愛したと言われ、15
カルターゴーの前には、サモス(*)すら軽んじるほどであった。都のあちこちに
自分の武具や戦車を置き、運命さえ許すなら、いつかこの国が
諸民族を支配するようにと願い、心にそう堅く決めていた。
しかし、女神はまた、やがてトロイア人の血を引く後裔(*)が誕生し、
テュロス人の城塞を打ち砕く日が訪れることも聞き知っていた。20
ここから、広く世界の王となり、戦争に勝ち誇る民族が現れて
リビュア(*)を滅ぼすだろう、というのがパルカエ(*)の予言であった。
サートゥルヌスの娘(*)はこの予言を恐れ、昔の戦争を、すなわち、
愛しいアルゴス人(*)のためにかつてトロイアで行なった戦争を忘れずにいた。
そのときの怒りの原因と激しい苦痛は、いまだ女神の 25
心から消えてはいない。胸の奥深くに留まっていたのは、
パリスの審判(*)とおのが容姿を軽んじられた侮辱、さらには
憎悪すべき一族(*)と拉致されたガニュメーデース(*)の誉れの記憶であった。
ユーノーはこれらの怒りに燃え、トロイア人を海上のいたるところで
翻弄し、ダナイー人(*)と非情なアキレウス(*)の手を逃れた者たちを 30
ラティウムから遠く引き離した。こうして長年のあいだ
運命に突き動かされたトロイア人は、あらゆる海をさまよい続けた。
ローマの民族を興すことは、これほどの大事業であった。
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テュロス: フェニキアの主要な商都。
カルターゴー: アフリカ北岸のフェニキア人の植民市。
ティベリス: イタリアの川。現在のテヴェレ川。
サモス: エーゲ海東部にある島。ユーノーの誕生の地とされる。
トロイア人の血を引く後裔:ローマ人。
リビュア: リビュアはアフリカの意味で用いられることがあるが、ここではカルターゴーを意味する。
パルカエ: パルカエはパルカの複数。ギリシア神話の運命の三女神(クロートー、ラケシス、アトロポス)を指す。
サートゥルヌスの娘: ユーノーを指す。サートゥルヌスはギリシア神話のクロノスに相当。
アルゴス人: アルゴスはギリシアにおけるユーノー崇拝の地。ここではトロイア人と戦ったギリシア人を指す。
パリスの審判: ユーノー、アテーナ、ウェヌスの三女神のうち誰が一番美しいかをトロイアの王子パリスが審判した。パリスはウェヌスを選び絶世の美女ヘレナを得たが、ユーノーとアテーナを敵に回し、トロイア戦争を招いた。
憎悪すべき一族: トロイア人。
ガニュメーデース: トロイア初代の王トロースの子で美少年。鷲にさらわれ、天上でユッピテルの寵愛を受けたため、その妻ユーノーの怒りを買う。
ダナイー人: アルゴス人と同じくギリシア人の呼称。
アキレウス: トロイア戦争におけるギリシア軍を代表する勇士。