語彙と文法
「ホディエー・ミヒ・クラース・ティビ」と読みます。
hodiē は「今日」を意味する副詞です。
mihi は「私」を意味する1人称単数の人称代名詞 ego の与格です。
crās は「明日」を意味する副詞です。
tibi は「あなた」を意味する2人称単数の人称代名詞tū の与格です。
「今日は私に、明日はあなたに」と訳せます。
「死」を意味する名詞 mors と動詞のest が省略されています。
これをふまえると、「今日は私に、明日はあなたに死が訪れる」と訳せます。
墓碑銘の言葉として知られます。つまり、この文の「私」とは死者のこと、「あなた」とは墓碑銘を見ている人間のことです。
「今日は私に、明日はあなたに」
まるで謎かけのような言葉です。パッと見てすぐに意味がわかりません。じつは、これは墓碑銘に刻まれる言葉で、注意を引くためか、わざと言葉が省かれています。主語に 「死」(モルス)を補ってみてください。「今日は私に、明日はあなたに死が訪れる」という意味になります。日本だと縁起が悪いと嫌われそうですが、欧米では今でも墓地の入り口にこの言葉が刻まれていたりします。
この言葉は私を死者と解釈するところにポイントがあります。死者から現世を生きる人間へのメッセージというのが、墓碑銘に見られる定番の一つです。「私はあなたであった。あなたは私になるだろう」という墓碑銘も有名です。これも、私を死者と受け取ることで合点できます。「私はあなたのようにかつて現世を生きる人間であった。この墓碑銘を見ているあなたもいずれ私のように死を迎えるだろう」と。
これらは、総じて「メメント・モリ」(死を忘れるな)のバリエーションととらえることができます。表題の言葉は、「今日」と「明日」、「私」と「あなた」というたった四つの言葉をくみあわせただけですが、読み手に生死の意味を鋭く問いかけます。じつに見事です。意味がわかると含蓄があることに気づくでしょう。
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