Serit arbores, quae alteri saeclo prosint. 木を植える:キケロー

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キケロー

語彙と文法

「セリト・アルボレース・クァエ・アルテリー・サエクロー・プローシント」と読みます。
serit は「植える」を意味する第3変化動詞 serō,-ere の直説法・能動態・現在、3人称単数です。
arborēs は「木、樹木」を意味する第3変化名詞 arbor,-boris m. の複数・対格です。
quae は関係代名詞quī,quae,quodの女性・複数・主格です。接続法の動詞(prōsint)を伴い、目的を表します(「目的を表す関係文))。先行詞arborēsについて、関係文で示される目的をもったものである、と説明しています。
alterī は「別の」を意味する第1・第3変化形容詞 alter,-era,-erum の中性・単数・与格です。saeclōにかかります。
saeclō は「世代」を意味する第2変化名詞saeclum,-ī n.の単数・与格です。
prōsint は「役立つ」を意味する合成動詞 prōsum,prōdesse の接続法・能動態・現在、3人称複数です。主語はarbōrēs(木)です(この場合のarbōrēsは複数・主格)。
「彼は次の世代に役立つように木を植える」と訳せます。
スターティウスの詩句として、キケローが『老年について』の中で引用している言葉です(下記参照)。

ノースダコタ州のモットー

Serit ut alterī saeclō prōsit.の形でノースダコタ州のモットーになっています。

このモットーのラテン語解説

utは接続法(prōsit)を伴い、「目的文」を表します。「~ために」と訳せばよいです。
この文の場合、直訳は「彼は(その木が)次の世代に役立つために(ut)(木を)植える」となります。上で紹介したスターティウスの言葉にあったarbōrēsが省かれています。前後で意味がとれるので省略されています。

言葉の背景

表題の言葉の背景をご紹介します。キケローは『老年について』(De Senectute)の中でサビーニー地方の農夫を引き合いに出し、

idem in eis elaborant quae sciunt nihil ad se omnino pertinere
この人たちは、自分にはまったく関係のないことが分かっていることにせっせと励んでいる。

と言います。

続けて、「次の世代に役立つようにと木を植える」(Serit arbores, quae alteri saeclo prosint)というスターティウスの詩句を引用し、農夫は「誰のために植えるのか」と問われるなら、

Dis immortalibus, qui me non accipere modo haec a maioribus voluerunt, sed etiam posteris prodere.
不死なる神々のために。神々は、私がこれを先祖から受け継ぐのみならず、後の世に送り渡すようにとも望まれた。

と迷わず答えるだろう、と述べています。

教育もしかり、研究もしかり、と強く感じる次第です。解釈は、それぞれのお立場でご自由にどうぞ。

Dīs… の文の語彙と文法

Dīs は「神」を表す deus,-ī m. の複数・与格です。
immortālibus は「不死の」を意味する第3変化形容詞 immortālis,-e の複数・与格で dīs にかかります。「不死なる神々のために」。
quī は関係代名詞quī,quae,quodの男性・複数・主格で、先行詞は dīs です。
mē は1人称単数の人称代名詞 ego の男性・単数・対格です。不定法 accipere の意味上の主語です。「対格不定法」と呼ばれる構文です。
nōn modo…sed etiam は、英語の not only A but also B と同じ用法になります。
haec は指示代名詞 hic,haec,hoc の中性・複数・対格です。
ā māiōribus について。ā は「<奪格>から」を意味する前置詞です。māiōribus は「先祖」を意味する第3変化名詞māiōrēs,-um m.pl. の奪格です。
voluērunt は「望む」を意味する不規則変化動詞 volō,velle の直説法・能動態・完了、3人称複数です。主語は「神々」と解釈できます。
posterīs は「後の世の者たち」を意味する第2変化名詞 posterī,-ōrum m.pl. の与格です。
prōdere は「送り渡す、伝える」を意味する第3変化動詞 prōdō,-ere の不定法・能動態・現在です。

文献案内

老年について (岩波文庫)
キケロー 中務 哲郎

キケロー

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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