Aurea mediocritas.

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語彙と文法

「アウレア・メディオクリタース」と読みます。
aureaは第1、第2変化形容詞aureus,-a,-um(黄金の)の女性・単数・主格です。mediocritāsにかかります。
mediocritāsは、「中庸」を意味する第3変化名詞 mediocritās,-ātis f.の単数・主格です。
黄金の中庸」と訳します。
ホラーティウスの言葉です(『詩集』2.10.5)。

「黄金の中庸」の意味

日頃「心のバランス」という言葉を耳にすることがあります。キケローも「人生を通じて心のバランスを保つことは素晴らしい。いつも変わらぬ表情と顔つきをしていられることもまた素晴らしい」と言っています。ローマの格言をいろいろ見ていると、心の激しい浮き沈みを戒める言葉がたいへん多いです。

「心のバランス」と言えば、ホラーティウスの「黄金の中庸」(アウレア・メディオクリタース)がもっとも有名です。「なにごともほどほどが一番」というくらいの意味です。「過ぎたるはなお及ばざるが如し」とも言われるように、何事にせよバランスを取るのは大切です。

ホラーティウスは、逃れられない死の定めについて、また人生の無常について、繰り返し詩の中で語っています。権力や富への過度の欲望にとらわれるべきでないこと、今ある質素な暮らしに満足し、「今日この日を楽しめ」と歌います。「Carpe diem. カルペ・ディエム」の詩でも有名ですね。

英語でも「中庸」のことをゴールデン・ミーンと言いますが、ホラーティウスの「アウレア・メディオクリタース」に遡ると考えられます。アクセントは「アウ」と「オ」に落ちます。二語から成る言葉なので覚えやすく、それでいて重みのある言葉なので、座右の銘にお勧めです。

『カルミナ(歌章)』(2.10)

ホラーティウスは、死という逃れられない定めについて、また人生の無常について、繰り返し説いています。そこから、権力や富への過度の欲望にとらわれるべきでないこと、今ある質素な暮らしに満足し、「今日この日を楽しめ」と歌うのです。

ある意味で、エピクロス派の幸福観を想わせます。次の詩の中には、「黄金の中庸」(Aurea Mediocritas)という有名な言葉が出てきます。ホラーティウスは、中庸の徳を大切にした人です。

X
Rectius uiues, Licini, neque altum
semper urgendo neque, dum procellas
cautus horrescis, nimium premendo
litus iniquom.
Auream quisquis mediocritatem 5
diligit, tutus caret obsoleti
sordibus tecti, caret inuidenda
sobrius aula.
Saepius uentis agitatur ingens
pinus et celsae grauiore casu 10
decidunt turres feriuntque summos
fulgura montis.
Sperat infestis, metuit secundis
alteram sortem bene praeparatum
pectus. Informis hiemes reducit 15
Iuppiter, idem
summouet. Non, si male nunc, et olim
sic erit: quondam cithara tacentem
suscitat Musam neque semper arcum
tendit Apollo. 20
Rebus angustis animosus atque
fortis appare; sapienter idem
contrahes uento nimium secundo
turgida uela.

『カルミナ(歌章)』(2.10)
君はもっと正しい生き方ができるだろう、リキニウスよ、
いつも大海にのりだすことがなければ、あるいは用心深く
嵐に怯えるあまり、危うい岸にあまりにも
しがみついたりしなければ。
誰であれ黄金の中庸を喜ぶ者は、
廃屋の汚れから無縁であってつつがなく、
嫉妬のもととなる館からも、冷静に
無縁でいられる。
巨大な松の木は、他のものにまして
風に揺さぶられること多く、そびえ立つ塔はひときわ激しく
崩れ倒れる。そして稲妻は、
山々の頂上を荒らすのである。
心がけのよい胸は、今とは別の運を、
逆境にあっては願い、順境では恐れる。
ユッピテルは、惨めな冬をもたらすが
その同じ神が
冬を取り除いてもくれる。たとえ今、悪しくとも
いつまでもそうではない。アポッローとて時に
沈黙した歌を掻き立てる、いつも弓を
引き絞っているわけではない。
苦難には、勇気を持って
力強く、対処せよ。しかしその一方、賢明になって、
あまりに順調な風に対しては、
はらんだ帆を畳め。

訳は逸身喜一郎、『古代ギリシャ・ローマの文学』(放送大学教育振興会、1996)の中からとりました(一部手を入れたところがあります)。

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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