語彙と文法
「イグノーランティー・クエム・ポルトゥム・ペタト・ヌッルス・ウェントゥス・エスト」と読みます。
ignōrantī は第1変化動詞ignōrō,-āre(知らない)の現在分詞、男性・単数・与格です。
quem は疑問形容詞quī,quae,quodの単数・対格で portum にかかります。
portum は「港」を意味する第4変化名詞 portus,-ūs m. の単数・対格です。
petat は「目指す」を意味する petō,-ere の接続法・能動態・現在、3人称単数です。
関節疑問文における動詞は接続法になります。
前半は、「いかなる港を目指すかを知らない人にとって」となります。
nullus は英語の no に相当する代名詞的形容詞nullus,-a,-umの男性・単数・主格でventus にかかります。
ventus は「風」を意味する第2変化名詞ventus,-ī m.の単数・主格です。
直訳は「いかなる港を目指すかを知らない人にとって、いかなる風もない(=いかなる順風も吹かない)」となります。
「どの港を目指すかわからなければ順風は吹かない」と訳せます。
セネカ『倫理書簡集』に見られる言葉です(Ep.71.3)。
どの港を目指すかわからなければ順風は吹かない
風は誰にも平等に吹きますが、目標を定めた人には順風と逆風の区別ができます。目標がなければどの風も同じ風です。表題の言葉は、環境を活かすも殺すもその人の志ひとつである、と解釈できます。
かのアルキメデスも目標設定が明確であったからこそ、風呂場のお湯が流れるのを見て「ヘウレーカ(私は発見した)」と快哉を叫ぶことができましたし、ニュートンも林檎が木から落ちるのを見て万有引力の法則を発見できました。
クオバディス(Quō vādis?)というラテン語があります。「あなたはどこに行くのか」という意味です。この名前の手帳もあり日本でも人気があります。人生を旅と見立て、あなたはどのような旅のアイデアを温めているのか、それに向けて日々どのようなプラニングをしているのか。このような問い掛けをネーミングに込めているのだと思われます。毎日自分のライフプランニングを見つめ、目標に向かって着実に歩んでいけたら何より素晴らしいことです。
表題はセネカの『ルキリウス宛て書簡集』に見られる言葉です。先行する箇所では「矢を射る者はまず何を射るのかを知らなければならない」と述べています。混迷の時代の中でも目標を見失わず、堅実に生きる気概を持つすべての人にとって、お勧めのラテン語と言えるでしょう。ボン・ボヤージュ。
コメント
コメント一覧 (2件)
[…] Ignoranti quem portum petat, nullus ventus est. […]
[…] セネカのIgnoranti quem portum petat, nullus ventus est.(どの港を目指すかわからなければ順風は吹かない)を思い出させます。 […]