キケローは『ピリッピカ』の中で宿敵アントーニウスに向かって一種の最後通告のようなセリフを浴びせます。
Quārē flecte tē, quaesō, et māiōrēs tuōs respice atque ita gubernā rem pūblicam, ut nātum esse tē cīvēs tuī gaudeant, sine quō nec beātus nec clārus nec tūtus quisquam esse omnīno potest.
語彙と文法
Quārē: それゆえ
flecte: flectō,-ere(変える)の命令法・能動態・現在、2人称単数。
tē: 2人称単数の人称代名詞、対格。
quaesō: quaesō,-ere(懇願する)の直説法・能動態・現在、1人称単数。
et: 「そして」。flecteとrespiceをつなぐ。
māiōrēs=mājōrēs: mājōrēs,-um m.pl.(先祖)の対格。
tuōs: 2人称単数の所有形容詞tuus,-a,-umの男性・複数・対格。māiōrēsにかかる。
respice: respiciō,-ere(振り返る)の命令法・能動態・現在、2人称単数。
atque: 「そして」。respiceとgubernāをつなぐ。
ita: 「そのように」。ut以下の「比較文」を指す。直訳では「次のように」とし、ut以下を「すなわちut以下のように」と受けて訳す。
gubernā: gubernō,-āre(導く)の命令法・能動態・現在、2人称単数。
rem: rēs,reī f.(もの、こと)の単数・対格。
pūblicam: 第1・第2変化形容詞pūblicus,-a,-um(公の)の女性・単数・対格。remにかかる。rēs pūblicaで「国家」を意味する。
ut: 「~のように」。接続法(gaudeant)を伴い、「比較文」を導く。
nātum: 形式受動態動詞nascor,-scī(生まれる)の完了分詞、男性・単数・対格。次のesseとともにnascorの不定法・受動態・完了を表す。
esse: 不規則動詞sum,esseの不定法・現在。
tē: 2人称単数の人称代名詞、対格。
cīvēs: cīvis,-is c.(市民)の複数・主格。
tuī: 2人称単数の所有形容詞tuus,-a,-umの男性・複数・主格。cīvēsにかかる。
gaudeant: gaudeō,-ēre(喜ぶ)の接続法・能動態・現在、3人称複数。
sine: <奪格>なしに
quō: 関係代名詞quī,quae,quodの中性・単数・奪格。先行詞は先行箇所の内容。
nec: 「~でない」。beātusを否定。
beātus: 第1・第2変化形容詞beātus,-a,-um(幸福な)の男性・単数・主格。
nec: 「~でない」。clārusを否定。
clārus: 第1・第2変化形容詞clārus,-a,-um(高名な)の男性・単数・主格。
nec: 「~でない」。tūtusを否定。
tūtus: 第1・第2変化形容詞tūtus,-a,-um(安全な)の男性・単数・主格。
quisquam: 不定代名詞quisquam,quidquam(誰か、誰でも、何か、何でも)の男性・単数・主格。
esse: 不規則動詞sum,esse(である)の不定法・現在。
omnīno: 「まったく」。否定を強める。
potest: 不規則動詞possum,posse(<不定法>ができる)の直説法・能動態・現在、3人称単数。
逐語訳
それゆえ(Quārē)、君自身を(tē)変えよ(flecte)、お願いだ(quaesō)、そして(et)君の(tuōs)先祖を(māiōrēs)振り返れ(respice)、そして(atque)次のように(ita)国家を(rem pūblicam)導け(gubernā)、すなわち、君が(tē)生まれたことを(nātum esse)君の(tuī)市民達が(cīvēs)喜ぶ(gaudeant)ように(ut)、そのこと(quō)なしに(sine)誰も(quisquam)幸せ(beātus)であることも(esse)高名(clārus)であることも(<esse>)安全(tūtus)であることも(<esse>)まったく(omnīnō)でき(potest)ない(nec…nec…nec)のだ。
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