西洋古典 訳と解説

「言葉は真の人間性に固有である」(キケロー『弁論家について』1.32より)

「言葉は真の人間性に固有」(キケロー『弁論家について』1.32より)

Age vērō, nē semper forum, subsellia, rostra cūriamque meditēre, quid esse potest in ōtiō aut iūcundius aut magis prōprium hūmānitātis, quam sermō facētus ac nullā in rē rudis?

Age: agō,-ere(行う)の命令法・能動態・現在、2人称単数。「さあ」。相手の行為を促す。この文の場合、相手の考えを促す。「さあ、よく考えてみたまえ」。
vērō: 「本当に、確かに、さらに」。この文の場合、「さらに」。
nē: 「~しないように」。接続法の動詞(meditēre)を伴い、否定の目的文を導く。
semper: 「常に」。meditēreにかかる副詞。
forum: forum,-ī n.(フォルム、公共広場)の単数・対格。
subsellia: subsellium,-ī n.(法廷の座席)の複数・対格。
rostra: rostrum,-ī n.(演壇)の複数・対格。
cūriamque: cūriamはcūria,-ae f.(議事堂)の単数・対格。-queは「そして」。rostraとcūriamをつなぐ。
meditēre: 形式受動態動詞medetor,-ārī(思案する、思い浮かべる)の接続法・現在、2人称単数。meditērisの別形。
quid: 疑問代名詞quis,quid(誰が、何が)の中性・単数・主格。potestの主語。
esse: 不規則動詞sum,esseの不定法・現在。
potest: 不規則動詞possum,posse(~できる)の直説法・能動態・現在、3人称単数。
in: <奪格>において
ōtiō: ōtium,-ī n.(閑暇)の単数・奪格。
aut: 「あるいは」。aut A aut B(あるいはA、あるいはB)の構文における1つ目のaut。
iūcundius=jūcundius: 第1・第2変化形容詞jūcundus,-a,-um(快い)の比較級、中性・単数・主格。
aut: 「あるいは」。aut A aut B(あるいはA、あるいはB)の構文における2つ目のaut。
magis: 「もっと、さらに」。propriumにかかる副詞。
prōprium: 第1・第2変化形容詞prōprius,-a,-um(<属格に>固有の)の中性・単数・主格。
hūmānitātis: hūmānitās,-ātis f.(人間性、人間らしさ)の単数・属格。
quam: ~よりも
sermō: sermō,-ōnis m.(話、言葉)の単数・主格。
facētus: 第1・第2変化形容詞facētus,-a,-um(巧みな、見事な、機知に富む)の男性・単数・主格。sermōにかかる。
ac: 「そして」。facētusとrudisをつなぐ。
nullā: 代名詞的形容詞nullus,-a,-um(ない)の女性・単数・奪格。rēにかかる。
in: <奪格>において
rē: rēs,reī f.(もの、こと)の単数・奪格。nullā in rēは熟語で「いかなる点においても~ない」。
rudis: 第3変化形容詞rudis,-e(粗野な、洗練されていない)の男性・単数・主格。

<逐語訳>
さらに(vērō)、さあ(Age)、君がいつも(semper)フォルム(forum)、法廷の座席(subsellia)、演壇(rostra)と(-que)議事堂を(cūriam)思い浮かべる(meditēre)ことのないように(nē)考えてみたまえ、何が(quid)閑暇(ōtiō)において(in)、機知に富み(facētus)そして(ac)いかなる点においても(nullā in rē)粗野で(rudis)ない言葉(sermō)よりも(quam)あるいは(aut)もっと快く(iūcundius)あるいは(aut)もっと(magis)人間性に(hūmānitātis)固有で(prōprium)ありえようか(esse potest)。

Hōc enim ūnō praestāmus vel maximē ferīs, quod conloquimur inter nōs et quod exprimere dīcendō sensa possumus.

Hōc: 指示代名詞hic,haec,hoc(これ)の中性・単数・奪格。「この点で」。後続する2つのquod文(quodの導く名詞節)の内容を指す。「次の点で」と訳すと意味が通りやすい。
enim: というのも
ūnō: 代名詞的形容詞ūnus,-a,-um(一人の、一つの)の中性・単数・奪格。Hōcにかかる。
praestāmus: praestō,-āre(<与格>にまさる)の直説法・能動態・現在、1人称複数。
vel: (最上級の前に置かれて)「明らかに、文句なく」。
maximē: 「最も、非常に、きわめて」。praestāmusにかかる副詞。
ferīs: ferus,-ī m.(野獣)の複数・与格。
quod: 「~ということ」。直説法の動詞(conloquimur)を伴い、Hōcの内容を説明する名詞節を導く。
conloquimur: colloquor,-quī(言葉を交わす)の直説法・能動態・現在、1人称複数。
inter: <対格>の間で
nōs: 1人称複数の人称代名詞、対格。
et: 「そして」。先行するquo文と2つ目のquod文をつなぐ。
quod:  「~ということ」。直説法の動詞(possumus)を伴い、Hōcの内容を説明する名詞節を導く。
exprimere: exprimō,-ere(表現する)の不定法・能動態・現在。
dīcendō: dīcō,-ere(言う)の動名詞、奪格。
sensa: sentiō,-īre(感じる)の完了分詞、中性・複数・対格。名詞的に用いられ、「感じられたことを」を意味する。exprimereの目的語。
possumus: 不規則動詞possum,posse(~できる)の直説法・能動態・現在、1人称複数。

<逐語訳>
というのも(enim)唯一(ūnō)この点で(=次の点で)(Hōc)我々は明らかに(vel)最も(maximē)野獣に(ferīs)まさる(praestāmus)からである。すなわち、我々が自分たちの間で(inter nōs)話を交わす(conloquimur)ということ(quod)、そして(et)われわれが感じられたことを(sensa)言うことによって(dīcendō)表現することが(exprimere)できる(possumus)ということ(quod)(=という二つの点で)。

<和訳>
いや、それだけではない、フォルムや法廷の席、演壇や議事堂のことばかりを思い浮かべてもいけないので言うのだが、どうだろう、私的な閑暇にあっていかなる点でも粗雑さのない聡明な談話ほど、心地よいもの、いや、真の人間性に固有のものが他にあるだろうか。というのも、互いに言葉を交わし、感じたこと、思ったことを言論によって表現できるという、まさにこの一点こそ、われわれ人間が獣にまさる最大の点だからである。(大西英文訳、岩波文庫)

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