ラテン語版「四季の歌」(オウィディウスによる)をご紹介しましょう。
Poma dat autumnus: formosa est messibus aestas:
ver praebet flores: igne levatur hiems. Ov.Rem.187ff.
秋は果実を与える。夏は豊作で美しい。
春は花々をもたらす。冬は火で楽になる。
ラテン語で四季を表す語が、2行のほぼ四隅に置かれ、それぞれの季節の特徴が簡潔に記されています。春→夏→秋→冬の順に記すわが国の『枕草子』とは異なり、秋→夏→春→冬の順で記されています。私の感心するのは、最後の冬に関する表現です。「冬は雪が降る」とか、「北風が強くふく」というのでは平凡です。冬と火の結びつき。火は人間の暮らしの象徴です。家族の団らんをも意味しているのでしょう。冬の厳しさは認めながらも、ほっとした心の安らぎが感じられる表現です。
文法の説明を簡潔にまとめます。まず1行目。poma は「果実」を意味する第二変化名詞 pomum の複数対格。dat は「与える」を意味する不規則動詞 do の現在・三人称複数。主語は autumnus (秋)。formosa は「美しい」を意味する第一・第二変化形容詞、女性・単数・主格。messibus は「収穫」を意味する第三変化女性名詞 messis の複数・奪格(原因・理由)。aestas は「夏」を意味する第三変化名詞、単数主格。
次に2行目。ver は「春」を意味する第三変化名詞、単数主格。praebet は「差し出す、与える」を意味する第二変化動詞 praebeo の能動相・現在、三人称・単数。flores は「花」を意味する第三変化名詞 flos の複数・対格。igne は「火」を意味する第三変化名詞 ignis の単数奪格(手段)。levatur は「弱める、軽減する」を意味する第一変化動詞 levo の受動相・現在、三人称単数。hiems が主語。hiems は「冬」を意味する第三変化名詞、単数・主格。
さて、日本の和歌から秋の趣きを称えた歌をひとつ。
春はただ花のひとへに咲くばかり 物のあはれは 秋ぞまされる 「拾遺集」
春に関して。
石(いは)ばしる垂水(たるみ)の上のさ蕨(わらび)の 萌え出づる春になりにけるかも 「万葉集」
『源氏物語』(「野分」)には、「春秋の争ひに、昔より、秋に心寄する人は数まさりけるを」と述べていますが、どちらも甲乙つけがたいです。
一方、春の到来について、『イリアス』第6巻では、次のように語っています。
度量ひろきテュデウスの子よ、わたしの素性などをどうして訊ねる。人の世の移り変わりは、木の葉のそれと変わりがない。風が木の葉を地上に散らすかと思えば、春が来て、蘇った森に新しい葉が芽生えてくる。そのように、人間の世代も、あるものは生じ、あるものは移ろうてゆく。
季節のうつろいに、人生のサイクルを重ね合わせる見方は、洋の東西を問わないように思われます。
P. Ovidius Naso: Amores. Epistulae. De Medic. Fac. Ars Amat. Remedia Amoris (Latin Edition)
Rudolf Merkel Rudolf Ovid