Dies dolorem minuit. 月日が苦悩を和らげる
Dies dolorem minuit. これはイギリスの学者ロバート・バートンの言葉として知られます。ラテン語の dies は英語の day に当たります。月日が苦悩を和らげるということは、程度の差こそあれ、誰もが体験を通して実感していることではないかと思います。
関西には「日にち薬」という言葉があります。どんな悲しみも苦しみも、日がたつことで癒されるという意味で使われます。つまり表題のラテン語と同じ意味を表します。
叙事詩『アエネーイス』に次の言葉があります(Aen.1.203)。
Forsan et haec olim meminisse iuvabit. きっとこれらのことも、いつか思い出して心楽しくなるだろう
嵐に翻弄され、見知らぬ土地に漂着したアエネーアスが悲嘆にくれる部下を励まして言うせりふです。「これらの苦悩」とはなにか。ひとつは見知らぬ土地での恐れ(敵に捕えられ殺されるのではないかという恐れ)。ひとつは嵐の中で体験した恐怖と仲間を失った悲しみ。さらには、船出の原因となったトロイア戦争の体験とその結末としてのトロイア崩壊の悲劇。これらの苦悩の一切もやがて月日が和らげるだろう、と言ってアエネーアスは部下を励ましているわけです。
この言葉は使われる状況次第で心に響く度合いが変わると思います。アエネーアスという武将はこの部下たちと食楽をともにしたからこそ、言葉に重みと説得力があります(実際にはアエネーアス以上に苦しみに耐えた武将はいない、と作品では描かれています)。もし部下たちだけが苦しみを負わされている状況なら、彼の言葉は空疎に響くでしょう。
表題のラテン語も、その意訳となる「日にち薬」という言葉も、それを用いるTPOをよくわきまえないといけませんが、目の前で苦しんでいる人と同じ苦しみを自分も共有している場合、あるいは先にそれを経験し克服した経験を持つ場合、この言葉を口にしたらきっと大きな励ましを相手に与えると思います。
アエネーイス (西洋古典叢書)
ウェルギリウス 岡 道男
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