Vis recte vivere? 汝正しく生きることを欲するか:ホラーティウス

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ホラーティウス

語彙と文法

「ウィース・レクテー・ウィーウェレ」と読みます。
visは「<不定法>を望む」を意味する不規則動詞 volo,velleの直説法・能動態・現在、2人称単数です。
rectēは「正しく」を意味する副詞です。
vīvereは「生きる」を意味する第3変化動詞 vīvō,-ereの不定法・能動態・現在です。
「あなたは正しく生きることを望むか」と訳せます。
ホラーティウスの『書簡詩』にみられる表現です(Ep.1.6.29)。

言葉の背景について

表題はホラーティウスの詩句に見られる言葉です。次のように続きます。

Quis non? si virtus hoc una potest dare, fortis omissis hoc age deliciis.
だれが望まないだろうか。もし美徳だけがこれを与えうるのなら、快楽を捨て力強くこれをなせ。

Hor.Ep. I,6,29

hoc (これ)とは表題の rectē vivere (正しく生きること)を指します。ホラーティウスにとって rectē vīvere とは「黄金の中庸」(aurea mediocritās)を尊ぶことと無関係ではありませんでした。

では、この「黄金の中庸」はどのような文脈で用いられた言葉なのでしょうか。原文の訳をご紹介します。

あなたはもっと正しい生き方ができるだろう、リキニウスよ、大海に
いつも迫ることをしなければ、あるいは嵐に対し
用心しすぎて震え上がり、危ない岸にあまりにも
船を寄せすぎることがなければ。

黄金の中庸を尊ぶ者は誰でも、
あばら屋の汚れを知ることもなく
安全である一方、人の羨む邸宅からも、
冷静なまま無縁でいられる。

巨大な松の木は、風に揺さぶられることが
甚だしく、そびえ立つ塔はいっそう激しく
崩れ落ち、稲妻も、山のてっぺんを
打ちつける。

物事をよく心得た胸は、今とは別の運を
不幸の中では願い、幸運の中では恐れる。
ユピテルは、惨めな冬をもたらすが
その同じ神が

取り除いてもくれる。たとえ今不幸でも
いつまでもそうではない。アポローも時おり
沈黙したムーサの目を覚ます。いつも弓を
張り続けているわけではない。

苦難には、勇気を持って
雄々しく振舞いたまえ。同じく賢明になって、
あまりに順調な風に対しては、
膨らみすぎた帆を畳むのがよい。 

ホラーティウス『詩集』第2巻10番

この詩の1行目の出だしは、Rectius uīuēs, Licinī, となっており、表題のラテン語 vīs rectē vīvere?と言葉の面で対応しています。「正しく生きる」とは、「黄金の中庸」を尊ぶことにほかなりません。

平たく言えば、万事につけ節度を弁えることと言い換えてよいでしょう。そこにアリストテレスに代表されるギリシア哲学の影響を見ることもできますが、人によっては東洋的な視点を読み取ることもできそうです。

文献案内

ラテン語と英語の対訳で、定評のある一冊です。

Odes and Epodes (Loeb Classical Library)
Horace Niall Rudd
0674996097

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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