Ne fronti crede.

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語彙と文法

「ネー・フロンティー・クレーデ」と読みます。
nē は命令法の動詞(この文だと crēde)と一緒に用いて「~するな」という禁止の命令を表します。
ただし、「禁止の命令」は、Nōlī frontī crēdere.のように表現するのが基本とされます。
frontī は「顔、外見」を意味する第3変化名詞 frons,frontis f. の単数・与格です。crēde の要求する与格です(対格でない点に注意します)。
credeは「与格をとる」動詞です。他動詞は対格を目的語にとるのが一般なので、credoを辞書で引くとこの点を特記しています。
crēde は「<与格>を信じる」を意味する第3変化動詞 crēdō,-ere の命令法・能動態・現在、2人称単数です。
「外見(顔)を信じるな」という意味になります。

「巧言令色すくなし仁」という『論語』の言葉を思い出します。

ラテン語学習者の質問

この言葉について、「ラテン語メーリングリスト」で質問を受けました。私の答えと合わせて紹介します。

Q. 苦戦してfronsの格変化を突き止めたものの、credeの目的語として登場するこの単語はなぜ対格のfrontemではなく与格のfrontiになるのでしょうか?

A. 重要なご質問です。たしかに「?」と思いますね。この?に応えるべく辞書には「+dat.」と説明がついています。

手元の研究社の「羅話辞典」(水谷著)の項目を見ますと、

3 信頼する、信用する <+dat.>
となっています。ただし、この3の用例との区別する意味で、
4 (事実・真実として)受け入れる <+acc.>

となっています。通常他動詞の目的語が対格の場合、わざわざ <+acc.>としないのですが、ここは例外です。

Q. それともcredoプラス与格で「●●を信じる」と慣用句的に覚えるしかないものなのでしょうか。

A. 結論として言ってしまえばそうなります。

これには異論もあると思いますが、私は、ことラテン語に関しては、「覚える」という能動的な努力を尊いと思う一方、その意識が「挫折」につながる例をたくさん見てきた者として、あえて「調べることで十分」と(講習会等で)言っています。「調べてわかる」ことは大切です。ラテン語を学んだことのない人にとって、調べてもわからない、調べ方がわからない、ケースが大半だから、そのことだけでも立派なことだと自分で自分に言い聞かせないと、ラテン語は長続きしません。

英語など現代語はこのような悠長なことは言ってられません。その点ラテン語は自分のペースで学び、納得できればそれでよし、の言語なので、私は「調べてわかることで十分」という意識で続けていただけたらと願っています。(そういいながらも、何度も辞書をひくうちに、覚えるべきものは自然と覚えているでしょう^^)。

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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