ユウェナーリスの警告(パンとサーカスと)

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「パンとサーカス」という言葉を耳にすることがあります。
ローマの風刺詩人ユウェナーリスの言葉を基にしたものです。
この言葉を含む前後関係を紹介します。

… iam prīdem, ex quō suffrāgia nullī
uendimus, effūdit cūrās; nam quī dabat ōlim
imperium, fascēs, legiōnēs, omnia, nunc sē
continet atque duās tantum rēs anxius optat, 80
pānem et circensēs. …

…我々民衆は、投票権を失って票の売買ができなくなって以来、
国政に対する関心を失って久しい。
かつては政治と軍事の全てにおいて権威の源泉だった民衆は、
今では一心不乱に、専ら二つのものだけを熱心に求めるようになっている―
すなわちパンと見世物を…(ウィキペディアの訳

<語彙と文法>
iam=jam: すでに
prīdem: 「以前に」。jam prīdemで「ずっと以前に」。effūditにかかる副詞。
ex: 「~以来」。
quō: 関係形容詞quī,quae,quodの中性・単数・奪格。省略されたtempore(tempusの単数・奪格)にかかる。「その(quō)とき(<tempore>)以来(ex)」。ex quōは英語のsinceに相当。
suffrāgia: suffrāgium,-ī n.(投票、投票権)の複数・対格。
nullī: 代名詞的形容詞nullus,-a,-um(ない)の男性・単数・与格。英語のnoに相当。
uendimus=vendimus: vendō,-ere(売る)の直説法・能動態・現在、1人称複数。
effūdit: effundō,-ere(捨てる)の直説法・能動態・完了、3人称単数。主語は「人民」を意味するpopulus(74行目)。
cūrās: cūra,-ae f.(世話、関心)の複数・対格。
nam: というのも
quī: 関係代名詞quī,quae,quodの男性・単数・主格。先行詞は省略。「~ところの者は」。
dabat: 不規則動詞dō,dare(与える)の直説法・能動態・未完了過去、3人称単数。
ōlim: 「かつて」。dabatにかかる副詞。
imperium: imperium,-ī n.(支配権)の単数・対格。
fascēs: fascis,-is m.(<複数で>執政官の職)の複数・対格。
legiōnēs: legiō,-ōnis, f.(軍団)の複数・対格。
omnia: 第3変化形容詞omnis,-e(すべての)の中性・複数・対格。名詞的に用いられ、「すべてのものを」を意味する。
nunc: 「今」。continetにかかる副詞。
sē: 3人称の再帰代名詞suī(自分)の男性・単数・対格。
continet: contineō,-ēre(抑制する)の直説法・能動態・現在、3人称・単数。
atque: 「そして」。continetとoptatをつなぐ。
duās: 「2つ(の)」を意味する基数詞duo,-ae,-oの女性・複数・対格。rēsにかかる。
tantum: 「ただ、単に」。optatにかかる副詞。
rēs: rēs,reī f.(もの、こと)の複数・対格。
anxius: 第1・第2変化形容詞anxius,-a,-um(心配な、不安な、落ち着きのない)の男性・単数・主格。副詞的に用いられている。
optat: optō,-āre(願う)の直説法・能動態・現在、3人称単数。
pānem: pānis,-is m.(パン)の単数・対格。
et: 「そして」。pānemとcircensēsをつなぐ。
circensēs: 第3変化形容詞circensis,-e(円形競技場の)の男性・複数・対格。省略された名詞lūdōs(lūdus,-ī m.の複数・対格)にかかる。lūdī circensēsは「円形競技場(circus)で行われる競技(lūdī)」(戦車競技等)を意味する。

<逐語訳>
人民は(<populus>)、ずっと以前に(iam prīdem)、我々が誰にも(nullī)投票権を(suffrāgia)売ら(uendimus)なくなってから(ex quō)、(政治への)関心を(cūrās)捨ててしまった(effūdit)。というのも(nam)かつて(ōlim)支配権(imperium)、執政官の職(fascēs)、軍団(legiōnēs)、(その他)すべてを(omnia)与えた(dabat)ところの(quī)者(=人民)は、今では(nunc)自らを(sē)抑制し(continet)、そして(atque)二つの(duās)もの(rēs)のみ(tantum)落ち着きのない状態で(=落ち着きなく)(anxius)願う(optat)からだ、すなわち、パン(pānem)と円形競技場の(circensēs)競技を(<lūdōs>)。

<追記>
元の詩の直訳は<逐語訳>のようになりますが、ウィキペディアの訳が読んでわかりやすいと思います。

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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