セネカ『倫理書簡集』3.2を読む:友情について

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セネカ『倫理書簡集』3.2を読む:友情について

<テクスト>

[2] … Tū vērō omnia cum amīcō dēlīberā, sed dē ipsō prius: post amīcitiam crēdendum est, ante amīcitiam iūdicandum. Istī vērō praeposterō officia permiscent quī, contrā praecepta Theophrastī, cum amāvērunt iūdicant, et nōn amant cum iūdicāvērunt. Diū cōgitā an tibi in amīcitiam aliquis recipiendus sit. Cum placuerit fierī, tōtō illum pectore admitte; tam audāciter cum illō loquere quam tēcum.

<語彙と文法>

Tū vērō omnia cum amīcō dēlīberā, sed dē ipsō prius:

Tū: 2人称単数の人称代名詞、主格。
vērō: しかし
omnia: 第3変化形容詞omnis,-e(すべての)の中性・複数・対格。この文では名詞的に用いられている。「すべてのことを」。dēlīberāの目的語。
cum: <奪格>と一緒に
amīcō: amīcus,-ī m.(友人)の単数・奪格。
dēlīberā: dēlīberō,-āre(熟考する)の命令法・能動態・現在、2人称単数。
sed: しかし
dē: <奪格>について
ipsō: 強意代名詞ipse,-a,-um(自ら、~自身)の男性・単数・奪格。amīcōを補って理解する。dē ipsōで「友人(amīcō)自身(ipsō)について(dē)」。dē sē ipsōであれば「自分自身について」。
prius: 「先に」。先行箇所からdēlīberā(熟慮したまえ)を補って理解する。

<逐語訳>
しかし(vērō)君は(Tū)すべてを(omnia)友人(amīcō)と一緒に(cum)熟慮したまえ(dēlīberā)。だが(sed)<その友人>自身(ipsō)について(dē)先に(prius)<熟慮したまえ>。

post amīcitiam crēdendum est, ante amīcitiam iūdicandum.

post: <対格>の後で
amīcitiam: amīcitia,-ae f.(友情)の単数・対格。post amīcitiamで「友情の後で」。「友情を結んだ後で」を意味する。
crēdendum: crēdō,-ere(信じる)の動形容詞、中性・単数・主格。estとともに「動形容詞の非人称表現」を作る。直訳すると、「信じるということが行われるべきである」。「信じるべきである」と訳す。何を信じるべきかは明示されていないが、友人と解釈できる。
est: 不規則動詞sum,esse(である)の直説法・現在、3人称単数。
ante: <対格>の前に
amīcitiam: amīcitia,-ae f.(友情)の単数・対格。ante amīcitiamで「友情の前に」。「友情を結ぶ前に」を意味する。
iūdicandum=jūdicandum: jūdicō,-āre(判断する)の動形容詞、中性・単数・主格。省略されたestとともに「動形容詞の非人称表現」を作る。「判断するということが行われるべきである」。「判断すべきである」と訳す。何を判断すべきかは明示されないが、友情を結ぶ相手が友とするのにふさわしいかどうかを判断すべきと主張している、と解釈される。

<逐語訳>
友情(amīcitiam)の後で(post)信じるべきである(crēdendum est)。友情(amīcitiam)の前に(ante)判断すべきである(iūdicandum)。

Istī vērō praeposterō officia permiscent quī, contrā praecepta Theophrastī, cum amāvērunt iūdicant, et nōn amant cum iūdicāvērunt.

Istī: 指示代名詞iste,-a,-ud(それ、その)の男性・複数・主格。名詞的に用いられ、「それらの者たちは」を意味する。quīの先行詞に当たる。
vērō: しかし
praeposterō: 「順序を逆にして」(副詞)。第1・第2変化形容詞praeposterus,-a,-um(前後転倒した)から作る副詞。ただしpraeposterēの形が一般的。
officia: officium,-ī n.(義務)の複数・対格。
permiscent: permisceō,-ēre(混乱させる)の直説法・能動態・現在、3人称複数。
quī: 関係代名詞quī,quae,quodの男性・複数・主格。先行詞はIstī。非制限用法として訳すことも可能(むしろそちらがベターと思われる)。
contrā: <対格>に反して
praecepta: praeceptum,-ī n.(教え)の複数・対格。
Theophrastī: Theopharastus,-ī m.(テオプラストス)の単数・属格。praeceptaにかかる。テオプラストスはギリシアの哲学者。アリストテレスの弟子。
cum: (直説法を伴い)「~のあとで」。
amāvērunt: amō,-āre(愛する、友愛を抱く)の直説法・能動態・完了、3人称複数。
iūdicant=jūdicant: jūdicō,-āre(判断する)の直説法・能動態・現在、3人称複数。
et: 「そして」。iūdicantとamantを主文の動詞とする二つの文をつなぐ。
nōn: 「~でない」。amantを否定する。
amant: amō,-āre(愛する、友愛を抱く)の直説法・能動態・現在、3人称複数。
cum: (直説法を伴い)「~のあとで」。
iūdicāvērunt=jūdicāvērunt: jūdicō,-āre(判断する)の直説法・能動態・完了、3人称複数。

<逐語訳>
しかし(vērō)、その者たちは(Istī)順序を逆にして(praeposterō)義務を(officia)混乱させる(permiscent)。すなわち、彼らは(quī)、テオプラストスの(Theophrastī)教え(praecepta)に反し(contrā)、友愛を抱いた(amāvērunt)後で(cum)判断し(iūdicant)、そして(et)、判断した(iūdicāvērunt)後で(cum)友愛を抱か(amant)ない(nōn)。

Diū cōgitā an tibi in amīcitiam aliquis recipiendus sit.

Diū: 長く
cōgitā: cōgitō,-āre(考える)の命令法・能動態・現在、2人称単数。
an: 「~かどうか」。間接疑問文(名詞節)を導く。
tibi: 2人称単数の人称代名詞、与格。「君にとって」、または、「君にとっての」。前者はrecipiendus sitにかけ(「君にとって・・・すべきである」=「君は・・・すべきである」)、後者はamīcitiamにかける(「君にとっての友情」)。
in: <対格>の中に
amīcitiam: amīcitia,-ae f.(友情)の単数・対格。
aliquis:  不定代名詞aliquis,aliquid(誰か、何か)の男性・単数・主格。「誰かが」。
recipiendus: recipiō,-pere(受け入れる)の動形容詞、男性・単数・主格。aliquisと性・数・格が一致。「動形容詞の人称表現」を作る。
sit: 不規則動詞sum,esse(である)の接続法・現在、3人称単数。間接疑問文中の接続法。

<逐語訳>
長く(Diū)考えたまえ(cōgitā)、君にとっての(tibi)友情(amīcitiam)の中に(in)誰かが(aliquis)受け入れられるべき(recipiendus)である(sit)かどうかは(an)。

Cum placuerit fierī, tōtō illum pectore admitte;

Cum: (接続法を伴い)「~なので、~ならば」。文脈を考慮し、「ひとたび~ならば」と訳す。
placuerit: placeō,-ēre(<不定法>が決定される)の接続法・能動態・完了、3人称単数。
fierī: 不規則動詞fīō,fierī(生じる、生まれる)の不定法・受動態・現在。この形で「~が生じること、生まれること」を意味する。この不定法の意味上の主語はamīcitiamと考えられる。その場合、「友情が(amīcitiam)生まれることが(fierī)決定された(placuerit)ならば(Cum)」。すなわち、「友情が生まれることを決定したならば」。あるいは、fierīの意味上の主語は直前の内容を受けると考えられる。その場合、「君にとっての友情の中に誰かが受け入れられるべきであること」が「生じることが決定されたならば」。すなわち、「君の友情の中に誰かを受け入れることを決定したならば」。
tōtō: 第1・第2変化形容詞tōtus,-a,-um(全体の)の中性・単数・奪格。pectoreにかかる。
illum: 指示代名詞ille,illa,illud(あれ、あの)の男性・単数・対格。admitteの目的語。3人称の人称代名詞の代用。「その人を」。「その人」とは、「友情の中に受け入れるべきか、検討しているその人」のこと。直前のaliquisを指す。
pectore: pectus,-toris n.(胸、心)の単数・奪格。tōtō…pectoreで「全体の心で」。いわんとすることは、「全身全霊をもって」。
admitte: admittō,-ere(入ることを許す、受け入れる)の命令法・能動態・現在、2人称単数。

<逐語訳1>
ひとたび友情が(amīcitiam)生まれることが(fierī)決定された(placuerit)ならば(Cum)、全体の(tōtō)心で(pectore)、その人を(illum)受け入れよ(admitte)。

<逐語訳2>
ひとたびそのことが(=君にとっての友情の中に誰かが受け入れられるべきであることが)生じることが(fierī)決定された(placuerit)ならば(Cum)、全体の(tōtō)心で(pectore)、その人を(illum)受け入れよ(admitte)。

tam audāciter cum illō loquere quam tēcum.

tam: (quamを伴い)「quam以下と同程度に」。
audāciter: 大胆に
cum: <奪格>とともに
illō: 指示代名詞ille,illa,illud(あれ、あの)の男性・単数・奪格。3人称単数の代名詞として用いられている。cum illōで「彼(その人)とともに」。
loquere: 形式受動態動詞loquor,-quī(話す)の命令法・現在、2人称単数。
quam: 「~のように」。tamとともに、「quam以下と同程度に(tam)」。
tēcum: tēは2人称単数の人称代名詞、奪格。cumは「<奪格>とともに」を意味する前置詞。tēcumはcum tēを意味し、「君(tē)とともに(cum)」を意味する。cum illō(彼とともに)と対比されている。

<逐語訳>
「君とともに(tēcum)のように(quam)、それと同じ程度に(tam)大胆に(audāciter)その人(illō)とともに(cum)話したまえ(loquere)。

<和訳>
君はどんな思案も友人と一緒にすればよい。しかし、その前に友人とはどういうものか考えたまえ。友情とは、結んだあとには信頼を置くべきであり、結ぶ前にその判断を下すべきだ。この順序を逆にする者たちは、友人に対する義務を混乱させる。つまり、テオプラストスの教えに反して、友愛を抱いた後に判断を下し、判断を下したあとには愛さない者たちだ。ある人を君との友情に迎え入れるべきかどうかについては、時間をかけて考えるべきだ。いったん迎え入れるべきだと決めたなら、その人に心のすべてを許したまえ。その人とは君自身と話すのと同じように臆さず話したまえ。(高橋宏幸訳、岩波書店)

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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