語彙と文法
「ウト・アメーリス・アマービリス・エストー」と読みます。
ut は目的を表す従属文(副詞節)を導きます。
amēris は「愛する」を意味する第1変化動詞 amō,-āre の接続法・受動態・現在、2人称単数です。
前半は、「あなたが愛されるために」という意味になります。
amābilis は「愛すべき、愛されるような」を意味する第3変化形容詞 amābilis,-e の男性(ないし女性)単数・主格で、この文の補語になっています。
estō は「~である、~がある」を意味する不規則変化動詞 sum,esse の命令法・未来、2人称単数です。「(あなたは)~であるように」という意味になります。
後半は「(あなたは)愛される人であるように」と訳せます。
あわせると、「愛されるためには、(あなた自身が)愛される人であるように」と訳せます。
オウィディウス『恋の技法』(Ars amatoria)に見られる言葉です。
文献案内
恋愛指南―アルス・アマトリア (岩波文庫)
オウィディウス Ovidius
余談
セネカの「愛されたいなら愛しなさい」とよく似た表現ですが、こちらは意中の女性に愛されるにはどうしたらよいか、その秘策を伝授する中で出てくる言葉です。
オウィディウスによれば、「美貌ははかない長所」であり、年月が経てば色あせてしまうゆえ、「今こそ長続きする精神を築き、それを美貌に加えよ」と言います。顔や容姿だけを気にかけてもだめなわけです。学芸による精神の鍛錬として、とくにラテン語とギリシア語を修めよ、というアドバイスには意表を突かれます。今で言えば、英語その他の外国語に堪能になれということでしょうか。それとも、すぐに役立つ技術でなく、時間をかけて精神の栄養となるような何かを学べということでしょうか。
女性に愛されるにはどうすればよいか。オウィディウスの答えは案外平凡に聞こえます。しかし、「愛される人」とは見掛け倒しの人ではなく、外面よりも内面を磨く人のことだ、というアドバイスは今の時代でも支持されるように思われます。ただ、その背景として、肉体と精神、滅びるものと不滅なものとの対比がはっきり意識されている点が、ヨーロッパの古典の言葉らしく思えます。
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