Q. 文頭の主格は主語とみてもよいか?

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Q. 文頭に置かれた主格は、主語と考えてよいのでしょうか。

A. 必ずしもそうとは限りません。

英語では語順が文の構造を判断する大きな手がかりになりますが、ラテン語では語順の自由度が比較的高いため、「文頭にある主格だから主語」と決めることはできません。

とくに sum(~である)のような動詞を用いた文では、主語も補語も主格になります。

主語を判断するときは、まず動詞の人称・数を確認し、次に語の一致や文脈を考えます。語順だけで判断しないことが大切です。

目次

Homō sum.

たとえば、

Homō sum.

という一文を考えてみましょう。

sum は sum, esse(~である)の直説法・現在、1人称単数です。したがって、主語は省略された ego(私は)です。

homō は「人間」を意味する主格ですが、ここでは主語ではなく補語です。

したがって、

「私は人間である」

と訳します。

文頭の homō を見て、「人間は……」と訳し始めてはいけません。

Deus erat verbum.

『新約聖書』「ヨハネによる福音書」1.1に、

Deus erat verbum.

という言葉があります。

Deus も verbum も主格なので、ラテン語の語形だけを見れば、どちらが主語でどちらが補語かは一見しただけでは決まりません。

しかし原文の文脈では verbum(言葉)が主語で、Deus が補語です。

したがって、

「言葉は神であった」

となります。

ここでも、文頭の Deus が主語とは限らないことがわかります。

Dux vītae ratiō.

次に、

Dux vītae ratiō.

を考えてみましょう。

dux(導き手)と ratiō(理性)はともに主格です。est は省略されています。

vītae は vīta(人生)の単数・属格です。

自然に理解すれば、

「理性は人生の導き手である」

となります。

語順どおりに「導き手は……」と訳し始める必要はありません。

ラテン語では、補語が主語より前に置かれることがあります。

Lupus est homō hominī.

次の有名な表現もよい例です。

Lupus est homō hominī.

lupus(オオカミ)と homō(人間)はともに主格です。

hominī は homō の単数・与格で、「人間にとって」の意味です。

ここでは homō が主語、lupus が補語です。

「人間は人間にとってオオカミである。」

となります。

lupus が文頭にあるからといって、これを主語と考える必要はありません。文全体の意味と文脈から、homō が主語であることがわかります。

Tū fuī, ego eris.

墓碑銘に、

Tū fuī, ego eris.

という言葉があります。

前半の tū は2人称単数の人称代名詞・主格ですが、主語ではありません。

fuī は sum の直説法・完了、1人称単数です。

したがって主語は省略された ego です。

Tū fuī.
「私はあなただった。」

ここで「私」は死者、「あなた」は墓碑を見る生者です。

後半の

ego eris

では、eris が2人称単数なので、主語は省略された tū です。ego は補語です。

「あなたは私になるだろう。」

つまり全体として、

「私はかつてあなたであった。あなたもやがて私になるだろう。」

という意味になります。

この例では、動詞の人称を見ることによって、文頭の主格が主語ではなく補語だとはっきり判断できます。

Bōs quoque formōsa est.

では、

Bōs quoque formōsa est.

はどうでしょうか。

bōs は「牛」を意味する第3変化名詞、単数・主格です。quoque は「~もまた」、formōsa は「美しい」という形容詞です。

ここでは formōsa が女性・単数・主格なので、bōs は女性、すなわち「雌牛」と理解されます。

「雌牛もまた美しい。」

となります。

この例では、形容詞の性・数・格の一致が、文の理解を助けています。

文頭の主格が主語になる場合も多い

もちろん、文頭の主格が主語である例も数多くあります。

Philosophia bonum consilium est.

「哲学はよき助言である。」

これはセネカの言葉です。

Philosophia(哲学)が主語、est が動詞、bonum consilium(よき助言)が補語です。

大切なのは、「文頭だから主語」と機械的に判断しないことです。

ラテン語では、

・動詞の人称と数
・名詞や形容詞の性・数・格の一致
・文脈
・語の意味

を手がかりにして、主語と補語の関係を判断します。

語順はその後で考える、と覚えておくとよいでしょう。

しっかり学ぶ初級ラテン語

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー『神々の本性について』(岩波書店)、ネポース『英雄伝』(講談社学術文庫)、プラウトゥス『カシナ』、テレンティウス『兄弟』、ルクレ―ティウス『事物の本性について』(いずれも京都大学学術出版会)。単著に『ローマ人の名言88』(牧野出版)、『しっかり学ぶ初級ラテン語』、『しっかり身につくラテン語トレーニングブック』、『ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」』(いずれもベレ出版)、『お山の幼稚園で育つ』(世界思想社)。

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