Justitiam cole et pietatem.

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語彙と文法

「ユスティティアム・コレ・エト・ピエターテム」と読みます。
justitiamは「正義」を意味する第1変化名詞 justitia,-ae f.の単数・対格です。
(「羅和辞典(改訂版)でjus-のuは短い)。
coleは「重んじる」を意味する第3変化動詞 colo,-ereの命令法・能動態・現在、2人称単数です。
etは「そして」を意味し、coleの2つの目的語 Justitiam とpietatemをつなぎます。
pietatemは「義務」を意味する第3変化名詞 pietas,-atis f. の単数・対格です。
「正義と義務を重んじよ」と訳せます。
キケローの『国家について』(De Re Publica)第6巻(「スキーピオーの夢」)にみられる表現です(Rep.6.16)。

言葉の背景(テクストと訳)

言葉の背景を知っていただくため、原文と訳を紹介します。

(16) Sed sīc, Scīpiō, ut avus hic tuus, ut ego quī tē genuī, iūstitiam cole et pietātem, quae cum magna in parentibus et propinquīs, tum in patriā maxima est;

しかし、スキーピオーよ、ここにいるおまえの祖父のように、おまえを生んだわたしのように、正義と義務を重んじよ。それは親と近親者に対して大切であるばかりか、祖国に対して最も大切なものである。

語彙と文法

Sed: しかし
sīc: 「このように」。utと呼応し、「ut以下のように」。
Scīpiō:  Scīpiō,-ōnis m.(スキーピオー)の単数・呼格。「スキーピオーよ」。
ut: 「~のように」。ut Aで「Aのように」。ut avusとut egoは「祖父(avus)のように」、「わたし(ego)のように」と訳す。
avus: avus,-ī m.(祖父)の単数・主格。大アーフリカーヌスはスキーピオーの義理の祖父。話者パウルスは実の父親。
hic: 指示形容詞hic,haec,hoc(この)の男性・単数・主格。avus(祖父)にかかる。avus hicで「この祖父」、すなわち「ここにいる祖父」。
tuus: 2人称単数の所有形容詞tuus,-a,-um(あなたの)の男性・単数・主格。avusにかかる。「ここにいる(hic)おまえの(tuus)祖父(avus)のように(ut)」。
ut: 「~のように」。2つ目のut。
ego: 1人称単数の人称代名詞、主格。ut egoで「わたしのように」。
quī: 関係代名詞quī,quae,quodの男性・単数・主格。先行詞はego。quī以下はegoにかかる形容詞節。
tē: 2人称単数の人称代名詞tūの対格。genuīの目的語。
genuī: gignō,-ere(生む)の直説法・能動態・完了、1人称単数。ut ego quī tē genuīで「おまえを(tē)生んだ(genuī)ところの(quī)わたし(ego)のように(ut)」。
iūstitiam=jūstitiam: jūstitia,-ae f.(正義)の単数・対格。coleの目的語。
cole: colō,-ere(重んじる)の命令法・能動態・現在、2人称単数。目的語はiūstitiamとpietātem。
et: 「そして」。2つの目的語iūstitiamとpietātemをつなぐ。
pietātem: pietās,-ātis f.(義務、孝心)の単数・対格。coleの2つ目の目的語。
quae: 関係代名詞quī,quae,quodの女性・単数・主格。先行詞はpietātem。この文では代名詞(illa)として使われ、文末のest(である)に対する主語になる。quaeは形の上で単数形だが、意味の上ではiūstitiaとpietāsの両方をさす。あるいはこれら2つの語を一つの概念として扱っているともみなせる。日本語に直す場合、「それは」でも「それらは」でもよい。
cum: cum A tum Bの形で「AのみならずBも」を意味する熟語を作る。
magna: 第1・第2変化形容詞magnus,-a,-um(大きな、大切な)の女性・単数・主格。主語はquae、動詞estに対する補語。この文ではmagnaの次にestが省略されている。
in: <奪格>に対して
parentibus: parens,-entis c.(親)の複数・奪格。
et: 前置詞inの支配する2つの名詞parentibusとpropinquīsをつなぐ。
propinquīs: propinquus,-ī m.(近親者)の複数・奪格。「親(parentibus)と(et)近親者(propinquīs)に対して(in)大切(magna)である(est)のみならず」。
tum:  cum A tum Bの形で「AのみならずBも」を意味する熟語を作る。
in: <奪格>に対して
patriā: patria,-ae f.(祖国)の単数・奪格。
maxima: 第1・第2変化形容詞magnus,-a,-um(大きな、大切な)の最上級maximus,-a,-umの女性・単数・主格。「もっとも大切な」。
est: 不規則動詞sumの直説法・現在、3人称単数。「祖国(patriā)に対して(in)もっとも大切(maxima)である(est)」。

逐語訳

しかし(Sed)、このように(sīc)スキーピオーよ(Scīpiō)、すなわちここにいる(hic)おまえの(tuus)祖父(avus)のように(ut)、またおまえを(tē)生んだ(genuī)ところの(quī)わたし(ego)のように(ut)、正義を(iūstitiam)そして(et)義務を(pietātem)重んじよ(cole)。それは(quae)親(parentibus)と(et)近親者(propinquīs)に対して(in)大切である(magna)ばかりか(cum)、祖国(patriā)に対して(in)もまた(tum)もっとも大切なもの(maxiam)である(est)。

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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