Nec tecum possum vivere, nec sine te. おまえなしに生きていけない。

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Martialis

語彙と文法

「ネク・テークム・ポッスム・ウィーウェレ・ネク・シネ・テー」と読みます。
Necは「~でない」。possumを否定します。「nec A, nec B」の構文で、A、B ともに否定します。
tēcumはcum tēを一語にまとめた表現です。tē は2人称単数の人称代名詞 tū の奪格です。
cum は「<奪格>とともに」を意味する前置詞です。cum tēは英語なら with you となるでしょう。
possum(~できる)を意味する不規則動詞possum,posse の不定法・現在です。
vīvere は「生きる」を意味する第3変化動詞 vīvō,-ere の不定法・能動態・現在です。possumがこの不定法を要求します。
sine は「<奪格>なしに」を意味する前置詞です。
tē は2人称単数の人称代名詞 tū の奪格です。sine tēで「おまえなしに」(英語のwithout you)。
「私はおまえとともに生きていけない、おまえなしに生きていけない」という意味になります。
マルティアーリス『エピグランマタ』に見られる表現です(12.46.2)。原文はこうです。

XLVI

Difficilis facilis, iūcundus acerbus es īdem:
Nec tēcum possum vīvere, nec sine tē.

この2行目が表題です。1行目は、「同じ君なのに扱いにくかったり従順だったり、楽しげだったり気難しかったりする。」という意味です。

1行目のiucundus, acerbus, idem から、「おまえ」と訳した相手(二人称単数)は男性だとわかります。この点を考慮し、「おまえ」を「あなた」と訳しても差し支えありません(この場合女から男へのメッセージという解釈)。むろん、男から男へのメッセージとみなしても構いません。

1行目の語彙と文法

Difficilis: 第3変化形容詞difficilis,-e(気難しい、扱いにくい)の男性・単数・主格。
facilis: 第3変化形容詞facilis,-e(易しい、従順な)の男性・単数・主格。
iūcundus=jūcundus: 第1・第2変化形容詞jūcundus,-a,-um(楽しい)の男性・単数・主格。
acerbus: 第1・第2変化形容詞acerbus,-a,-um(気難しい)の男性・単数・主格。
es: 不規則動詞sum,esse(である)の直説法・現在、2人称単数。
īdem: 指示代名詞īdem,eadem,idem(同じ)の男性・単数・主格。

<逐語訳>
君は同じ者として(īdem)扱いにくい(Difficilis)、従順な(facilis)、楽しい(iūcundus)、気難しい状態(acerbus)である(es)。

<和訳>
同じ君が、あるときは扱いにくく、あるときは従順で、あるときは楽しげで、あるときは気難しい。

Q&A

このフレーズについて読者から質問をいただきました。

Q. Nec tecum possum vivere, nec sine te. の詩の一節なのですがエピグランマタではこの通りと存じております。ただ最近アニメか何かのキャラクターがこの一節を刺青で入れていまして、そちらが、Nec possum tecum vivere, nec sine te. という風に書き換えられていまして、ネットで検索しても、nec possum の結果の方が多く、どちらが文法として正しいのか、知りたくご連絡させて頂きました。

A. アニメの刺青の文もオリジナルと語順が違うだけで意味は変わりません。英語と違って語順の自由度が高いのがラテン語の特徴です。ただ、上に紹介したようにこのフレーズは詩の一部なので、語順は重要です(韻律のルールに基づいて配列されています)。

韻律の分析

この詩の韻律の分析は以下の通りです。

Diffici | lis faci | lis, iū | cundus a | cerbus es | īdem:
Nec tē | cum pos | sum // vīvere, | nec sine | tē.

エレゲイアの韻律(ディスティコン)です。韻律については、河島思朗氏の解説が詳しいです。>>ラテン文学の韻律(2)

Martialis

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

コメント

コメント一覧 (8件)

  • これのタトゥーを入れたいんですけど、
    見栄えのためにvivereの後ろのカンマ省いても
    文章おかしくないですか?

  • 離婚して娘がいるのですが
    元嫁が連れていきました
    今でも (娘と)いつでも会えるのですが
    一緒に暮らすのは無理なんですけど
    この文章は適切ですか?

    一緒には暮らせないけど娘が
    生きてる(いないと)パパは
    生きていられないって感じです

    娘を溺愛してるバカパパで すみません

    • 矛盾した感情を短い表現の中に凝縮している一文です。この言葉の受け手として、「なるほど」という気持ちと「ちがう」という気持ちの両方を感じるのが自然かもしれません。

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