Injuriarum remedium est oblivio.

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「インユーリアールム・レメディウム・エスト・オブリーウィオー」と読みます。
injūriārum は「不正、被害」を意味する第1変化名詞 injūria,-ae f. の複数・属格です。remediumにかかります。
この属格は「目的語的属格」と呼ばれます。
たとえば、amor deīという表現において、deī(deusの単数・属格)はamorにかかります。
日本語に訳すと「神の(deī)愛(amor)」ですが、「神<が>(人間を)愛すること」と訳す場合は「主語的属格」、「神<を>(人間が)愛すること」と訳す場合は「目的語的属格」です(どちらも可能)。
remedium は「治療」を意味する第2変化名詞 remedium,-ī n. の単数・主格です。
再び injūriārum remediumについて言えば、直訳は「不正の(injūriārum)治療(remedium)」です。この表現は、「不正<が>治療すること」ではなく「不正<を>治療すること」と解釈できますので、このinjūriārumは「目的語的属格」とみなせます。
estは不規則動詞sum,esse(である)の直説法・現在、3人称単数です。
oblīviō は「忘却」を意味する第3変化名詞 oblīviō,-ōnis f. の単数・主格です。
remediumもoblīviōもどちらも主語の資格があります。片方を主語とみなすと、片方を補語とみなします。
一般的な訳は、「不正の治療は忘却である。」となります。
これを「忘却とは不正の治療である」と訳すこともできます。
プブリリウス・シュルスの金言です。

Martialis

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

コメント

コメント一覧 (3件)

  • プブリリウスの格言「一度にふたつのことをすることはどちらもしないということだ」をラテン語で知りたいと思いネットを検索しましたが、どうにも要領を得ませんでした(中には「英語の格言」として挙げられているサイトまでありました!)。ぜひ原語での表現を知りたいと思っておりますが、ご教示願うことはできますでしょうか。よろしくお願いいたします。

  • 山下です。
    プブリリウス・シュルスの言葉とのこと、私は知りませんでした。
    Latin Libraryのシュルスのページを開きます。
    https://www.thelatinlibrary.com/syrus.html
    「二つ」を意味するduoで検索してみます。
    Ad duo festinans neutrum bene peregeris. 
    これでしょうか。
    2つのもの(duo)に向かって(Ad)急ぐ時(festinans)君はどちらも(neutrum)うまく(bene)成し遂げられ(peregeris)ないだろう。
    語彙は以下の通りです。
    festino,-are 急ぐ
    neuter,-tra,-trum どちらも~でない
    perago,-ere 成し遂げる
    参考になれば幸いです。

  • 語彙の解説までをもご丁寧にありがとうございます!
    ラテン語はたった6語なのにどうしてこう味わい深いのでしょうか。しびれます。

    たまたま読んでいた、マルチタスクに関する英語のエッセイの最終段落で、「プブリリウス・シュルスも言ってるようにね」的な一文があったのですが、その具体的な格言(調べたところ”To do two things at once is to do neither.”)は紹介されないままエッセイは終わっていました。ですので、西洋人はみんなプブリリウスのことを知っているのか!!?と仰天してしまったのでした。

    大変興味深いサイトもご紹介いただきありがとうございます。活用していけるように勉強を続けたいと思います。

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