歌ってくれと頼まれても応じない歌い手の話:ホラーティウス

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ギリシア・ローマ名言集
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歌い手の悪徳の話:ホラーティウス

『ギリシア・ローマ名言集』に「うたいて」と題する次の一文が載っています(マクロンは私がつけたものです)。

omnibus hoc vitium est cantōribus, inter amīcōs
ut numquam indūcant animum cantāre rogantī,
iniussī numquam dēsistant.

友人らとともにあるときは、歌ってくれと頼まれても応じないくせに、だれも歌えと言わないと、一向に歌いやめない、それがあらゆる歌い手の悪徳だ。ホラティウス『風刺詩』第一巻3.1

一字一句文法に即して解釈してみましょう。

omnibus: 第3変化形容詞omnis,-e(すべての)の男性・複数・与格。cantōribusにかかる。
hoc: 指示形容詞hic,haec,hoc(この)の中性・単数・主格。文の主語。「このような(hoc)欠点が(vitium)」。hocはut以下の内容を指す。
vitium: vitium,-ī n.(欠点、悪徳)の単数・主格。文の主語となる。
est: 不規則動詞sum,esse(である、ある)の直説法・現在、3人称単数。「このような(hoc)欠点が(vitium)ある(est)」。
cantōribus: cantor,-ōris m.(歌手)の複数・与格。「所有の与格」。「歌手には」。「歌手には(cantōribus)このような(hoc)欠点が(vitium)ある(est)」。「歌手はこのような欠点を持っている」と訳すことも可能。
inter: <対格>の間では
amīcōs: amīcus,-ī m.(友人)の複数・対格。
ut: 「~ということ」。名詞節を導く。
numquam: 「けっして~ない」。indūcantを否定。
indūcant: indūcō,-ere(導きいれる、説いて~させる)の接続法・能動態・現在、3人称複数。animumを目的語にとるとき、「心を(animum)説いて<不定法>させる」、すなわち「<不定法>する気持ちになる、決心する」。
animum: animus,-ī m.(心、精神、気持ち)の単数・対格。
cantāre: cantō,-āre(歌う)の不定法・能動態・現在。
rogātī: rogō,-āre(求める)の完了分詞、男性・複数・主格。「求められた状態で」。
iniussī=injussī: 第1・第2変化形容詞injussus,-a,-um(命じられていない、求められていない)の男性・複数・主格。「求められていない状態で」。
numquam: 「けっして~ない」。dēsistantを否定。
dēsistant: dēsistō,-ere(やめる)の接続法・能動態・現在、3人称複数。

<逐語訳>
すべての(omnibus)歌手には(cantōribus)このような(=次のような)(hoc)欠点が(vitium)ある(est)。すなわち、友人たち(amīcōs)の間では(inter)(歌うことを)求められても(rogātī)けっして(numquam)歌うことを(cantāre)決心し(indūcant animum)ないが、求められていない状態では(iniussī)けっして(numquam)(歌うことを)やめ(dēsistant)ないという(ut)欠点がある。

ギリシア・ローマ名言集

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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