兵士が言う「商人は幸せだ」、商人が言う「兵役のほうがましさ」:ホラティウス

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ギリシア・ローマ名言集

岩波文庫の『ギリシア・ローマ名言集』に次のホラーティウスの詩行が紹介されています。

’Ō fortūnātī mercatōrēs!’ gravis annīs
mīles āit, multō iam fractus membra labōre.
contrā mercātor, nāvem iactantibus Austrīs,
‘Mīlitia est potior. Quid enim? Concurritur; hōrae
mōmentō cita mors venit aut victōria laeta.’

ホラティウス『風刺詩』(第一巻1.4)の言葉です。柳沼訳は次の通りです。

寄る年波の重さにあえぐ兵士が言う、「商人は幸せだ」。長年のご奉公で、体にすっかりがたが来ているのだ。反対に、南からの烈風に船事もまれた商人が言う、「兵役の方がましさ、どうしてかって?ちゃんばらしてさ、勝って喜ぶか、死んじまうか、あっと言う間に決まるものな」。

岩波文庫『ギリシア・ローマ名言集』(柳沼重剛)

語彙と文法

Ō: おお
fortūnātī: fortūnātus,-a,-um(幸運な)の男性・複数・呼格。
mercatōrēs: mercātor,-ōris m.(商人)の複数・呼格。
gravis: gravis,-e(重い、圧迫された)の男性・単数・主格。
annīs: annus,-ī m.(年、年齢)の複数・奪格。「年齢の点で」または「年齢によって」。
mīles: mīles,-litis c.(兵士)の単数・主格。
āit: āiō(言う)の直説法・能動態・現在、3人称単数。
multō: multus,-a,-um(多くの)の男性・単数・奪格。
iam=jam: 今、すでに
fractus: fractus,-a,-um(弱弱しい、力のない)の男性・単数・主格。frangō,-ere(粉砕する)の完了分詞から派生した形容詞。
membra: membrum,-ī n.(身体、四肢)の複数・対格。「限定の対格」。四肢の点で。
labōre: labor,-ōris m.(労苦、苦役)の単数・奪格。
contrā: それに対して
mercātor: mercātor,-ōris m.(商人)の単数・主格。
nāvem: nāvis,-is f.(船)の単数・対格。
iactantibus=jactantibus: jactō,-āre(投げる、揺り動かす)の現在分詞、男性・複数・奪格。
Austrīs: Auster,-trī m.(南風)の複数・奪格。「絶対的奪格」。
Mīlitia: mīlitia,-ae f.(軍務)の単数・主格。
est: sum,esse(である)の直説法・現在、3人称単数。
potior: potis,-ius(potisの比較級:よりよい)の女性・単数・主格。
Quid: なぜ
enim: いったい
Concurritur: concurrō,-ere(戦う)の直説法・受動態・現在、3人称単数。「非人称表現」。
hōrae: hōra,-ae f.(時間)の単数・属格。
mōmentō: mōmentum,-ī n.(短時間)の単数・奪格。
cita: citus,-a,-um(早い、急な)の女性・単数・主格。
mors: mors,mortis f.(死)の単数・主格。
venit: veniō,-īre(訪れる)の直説法・能動態・現在、3人称単数。
aut: あるいは
victōria: victōria,-ae f.(勝利)の単数・主格。
laeta: laetus,-a,-um(喜ばしい)の女性・単数・主格。

逐語訳
「おお(Ō)幸福な(forūnātī)商人たちよ(mercatōrēs)」と年齢の点で(annīs)重い(gravis)兵士が(mīles)言う(āit)、すでに(iam)多くの(multō)労苦によって(labōre)四肢の点で(membra)弱々しい(fractus)彼は。それに対し(contrā)商人は(mercātor)、船を(nāvem)南風が(Austrīs)揺り動かす(iactantibus)状況を伴って、「軍務は(Mīlitia)よりよい(potior)。いったい(enim)どうして(Quid)(そういえるのか)?戦うことが行われる(Concurritur)(=戦いが起きる)。時間の(hōrae)短時間において(mōmentō)(=あっという間に)早い(cita)死が(mors)訪れる(venit)、あるいは(aut)喜ばしい(laeta)勝利が(victōria)訪れる。

『ギリシア・ローマ名言集』のローマの部にはおよそ200ちょっとのラテン文が紹介されています。ホラーティウスの引用が多い印象です。

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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