語彙と文法
「アモル・オムニブス・イーデム」と発音します。
amorは第3変化名詞amor,-ōris m.の単数・主格です。
omnibus は「すべての」を意味する第3変化形容詞omnis,-e の中性・複数・与格です。この文の場合「すべての(生物)にとって」と解釈できます(原文を見るとanimālibusが省略されていることがわかります)。この与格は「判断者の与格」です。
īdem は指示代名詞īdem,eadem,idem(同じもの)の男性・単数・主格で、この文の補語になっています。
動詞としてestが省かれています。
「愛はすべての生き物にとって同じである」と訳せます。
ウェルギリウスの『農耕詩』に見られる言葉です(Geo.3.244)。
オリジナルの文脈では、愛(amor)が炎(ignis)と狂気(furia)にたとえられています。
補足
īdemは中性のidemではないかという考え方も成り立ちますが、主語の性・数・格にあわせています。 また、韻律面で見ても、
in furi | ās ig | nemque ru | unt: amor | omnibus | īdem.
となりますので、idem(イデム)でなくīdem(イーデム)です。
文脈の紹介
Omne adeō genus in terrīs hominumque ferārumque
et genus aequoreum, pecudēs pictaeque uolucrēs,
in furiās ignemque ruunt: amor omnibus īdem.
Omne: 第3変化形容詞omnis,-e(すべての)の中性・単数・主格。genusにかかる。
adeō: 「それほどまで」。ruuntにかかる副詞。
genus: genus,-eris n.(種族)の単数・主格。
in: <奪格>における
terrīs: terra,-ae f.(大地)の複数・奪格。
hominumque: hominumはhomō,-minis c.(人間)の複数・属格。genusにかかる。-queは「そして」。Aque Bqueで「AとBと」。
ferārumque: ferārumはfera,-ae f.(野獣)の複数・属格。genusにかかる。-queは「そして」。Aque Bqueで「AとBと」。「大地(terrīs)における(in)人間(hominum)と(-que)野獣(ferārum)と(-que)のあらゆる(Omne)種族は(genus)」。
et: 「そして」。genusとgenusをつなぐ。
aequoreum: 第1・第2変化形容詞aequoreus,-a,-um(海の)の中性・単数・主格。genusにかかる。「海の種族」は魚を意味する。
pecudēs: pecus,-udis f.(家畜)の複数・主格。
pictaeque: pictaeは第1・第2変化形容詞pictus,-a,-um(彩色された、色鮮やかな)の女性・複数・主格。uolucrēsにかかる。-queは「そして」。pecudēsとuolucrēsをつなぐ。
uolucrēs=volucrēs: volucris,-is f.(鳥)の複数・主格。「そして(et)海の(aequorerum)種族も(genus)、獣も(pecudēs)、そして(-que)色鮮やかな(pictae)鳥たちも(uolucrēs)」。
in: <対格>の中に
furiās: furia,-ae f.(狂乱、激情)の複数・対格。
ignemque: ignemはignis,-is m.(火、炎)の単数・対格。-queは「そして」。furiāsとignemをつなぐ。
ruunt: ruō,-ere(突進する)の直説法・能動態・現在、3人称複数。
<逐語訳>
大地(terrīs)における(in)人間(hominum)と(-que)野獣(ferārum)と(-que)のあらゆる(Omne)種族は(genus)、そして(et)海の(aequorerum)種族も(genus)、獣も(pecudēs)、そして(-que)色鮮やかな(pictae)鳥たちも(uolucrēs)激情(furiās)と(-que)炎(ignem)の中に(in)突進する(ruunt)。愛は(amor)すべて(の生物)にとって(omnibus)同じ(īdem)である(<est>)。
「愛は生きとし生けるものにとって同じである」という考えを裏付ける例として、詩人はギリシャ神話の「へ―ローとレアンドロス」のエピソードを紹介します(若い男女が命の危険を顧みずに愛し合う例)。
第3巻258-263で次のように言及しています。
「恐ろしい愛に身を焦がす、かの若者を想え。彼は真暗な夜更けに、嵐が吹き荒れ波立ち騒ぐ海峡を泳ぎ渡る。彼の頭上には天の巨大な門が雷鳴を発し、断崖に突き当たる波は引き返せと叫ぶが、哀れな両親も、まもなく嘆きのあまり死ぬことになる乙女も、彼を呼びとめることはできない。」(河津千代訳)
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