
語彙と文法
「エト・トゥー・ブルーテ」と読みます。
et は「~もまた」を意味します。次にくる語を強調し、et A で「Aもまた」という意味を表します。
tū は2人称単数の人称代名詞、主格です。Et tūで「おまえも(~するのか)」というニュアンスです。
Brūte は 第2変化名詞 Brūtus,-ī m. (人名)の単数・呼格です。
「おまえもか、ブルートゥスよ」と訳せます。
シェイクスピアの『ジュリアス・シーザー』に出てくる台詞です。我が国では「ブルータスよおまえもか」の訳で知られます。
補足
世界でもっとも有名な裏切りの言葉の一つです。シェイクスピアは英語でこの戯曲を書きましたが、この一句はラテン語で記されています。
Brūte は「ブルーテ」と読みます。しかし日本語では普通、「ブルータスよ」と訳されます。ブルータスとは、ラテン語の人名 Brūtus(ブルートゥス)の英語読みだからです。
ここで、「なぜ Et tū, Brūtus? ではないのか」と疑問に思う人もいるかもしれません。ラテン語では名詞が格変化し、文中での役割によって語尾が変わります。Brūtus は主格形、Brūte は呼びかけを表す呼格です。したがって、この場合は「ブルートゥスよ」という呼びかけの形である Brūte が用いられているのです。
Et はここでは「そして」ではなく、「~もまた」を意味します。英語の and の感覚で読むと、「そしておまえは、ブルートゥスよ」となってしまいますが、それでは意味が曖昧です。Et を also の意味で理解して初めて、信頼していたブルートゥスにまで裏切られたカエサルの衝撃と絶望が伝わってきます。
tū は英語の you に当たり、「おまえは」を意味する二人称単数代名詞です。しかし、この文には動詞が見当たりません。ラテン語では、文脈から明らかな動詞はしばしば省略されます。ここでは、「私を殺すのか」という意味が暗黙のうちに含まれているのでしょう。「ブルータスよ、おまえも私を殺すのか」と補えば意味は明瞭になりますが、あえて語らないことで、この一句には鋭い余韻が生まれています。
もっとも、「Et tū, Brūte?」はシェイクスピアの創作であり、カエサルが実際にこう言ったかどうかは確認できません。ただし、De Vita Caesarum(『皇帝伝』82)には、暗殺の際、カエサルがギリシャ語で「καὶ σύ, τέκνον(お前もか、わが子よ)」と言ったという伝承が記されています。これが事実かどうかも定かではありませんが、シェイクスピアがこの伝承を踏まえた可能性は十分に考えられます。
歴史と文学が交差するところに、この一句の深みがあります。
コメント
コメント一覧 (3件)
(2017.1.11)
哲学や歴史、世界の文化に興味を持っており、偶然、貴ウェブサイトを拝見しました。福岡県の下川と申します。
もし、差し支えなければ質問をしたいのです。
芸術と哲学、と言う場合
英文法のA & Bと同様に、ラテン語でも
“ars et philosophia”でも良いのでしょうか。
もし、ご回答いただけますと幸いです。
下川様
ご質問の件ですが、「芸術と哲学」は、お考え下さったとおり、ラテン語でars et philosophia と表現できます。
[…] 第2変化の男性名詞(単数)の例:Et tū, Brūte? (ブルートゥスよ、おまえもか) […]