『ガリア戦記』の冒頭の解説

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Gallia est omnis dīvīsa in partēs trēs, quārum ūnam incolunt Belgae, aliam Aquītānī, tertiam quī ipsōrum linguā Celtae, nostrā Gallī appellantur.

Gallia: Gallia,-ae f.(ガリア)の単数・主格。主文の主語。
est: 不規則動詞sum,esse(である)の直説法・現在、3人称単数。
omnis: 第3変化形容詞omnis,-e(すべての)の女性・単数・主格。Galliaを修飾する形容詞の属性的用法とみるとき「すべてのガリアは」。副詞的(述語的)用法とみなすとき「ガリアは全体として」(または「ガリア全体は」)。文脈に照らし後者と解釈する。
dīvīsa: dīvīdō,-ere(分ける)の完了分詞、女性・単数・主格。「分けられた状態で」。主文の補語。「ガリアは(Gallia)全体として(omnis)分けられた状態(dīvīsa)である(est)」。dīvīsaはestとともにdīvīdōの直説法・受動態・完了、3人称単数を表すが、ここはGalliaの状態を説明する形容詞として使われている。est…dīvīsaをかりに直説法・受動態・完了とみなすなら、過去のある時点でガリア全体が3つの部分に分けられたという(ありえない)歴史的事実を述べることになる。
in: <対格>に
partēs: pars,partis f.(部分、地域)の複数・対格。
trēs: 基数詞trēs,tria(3、3つの)の女性・複数・対格。partēsにかかる。「三つの(trēs)地域(partēs)に(in)」。
quārum: 関係代名詞quī,quae,quodの女性・複数・属格。先行詞はpartēs。関係代名詞の「非継続用法」とみなし、「そしてそれらの」と訳す。
ūnam:  基数詞ūnus,-a,-um(一人の、一つの)の女性・単数・対格。省略されたpartemにかかる。
incolunt: incolō,-ere(<対格>に住む)の直説法・能動態・現在、3人称複数。ūnam <partem>を目的語に取る。主語はBelgae。
Belgae: Belgae,-ārum m.pl.(ベルガエ人)の複数・主格。「そしてそれらの(quārum)一つの(ūnam)地域に(<partem>)ベルガエ人が(Belgae)住む(incolunt)」。
aliam: 代名詞的形容詞alius,-a,-ud(別の、第二の)の女性・単数・対格。省略されたpartemにかかる。
Aquītānī : Aquītānī,-ōrum m.pl.(アクゥイーターニー人)の複数・主格。アクゥイーターニアは現フランス南西部アキテーヌ。「アクイーターニア人」と表記することもできるが、『羅和辞典』に基づき「アクゥイーターニー人は」と訳す。高橋訳は「アクイターニー人」としているが誤植ではない。翻訳における音引きの問題は悩ましく、母音の長短の再現を忠実に行うと日本語として間延びした印象を与えることが多い。
tertiam: 序数詞tertius,-a,-um(第三の)の女性・単数・対格。省略されたpartemにかかる。
quī: 関係代名詞quī,quae,quodの男性・複数・主格。先行詞eī(指示代名詞is,ea,idの男性・複数・主格)は省略。このeīは3人称複数の人称代名詞の代用。直訳は「彼らは」。「quī以下であるところの彼らが(<eī>)」。一般に「quī以下であるところの人々が」と訳す。<eī> quīは英語のthose whoの構文を想起してよい。
ipsōrum: 強意代名詞ipse,ipsa,ipsum(みずから、自身)の男性・複数・属格。「彼ら自身の」。linguāにかかる。
linguā: lingua,-ae f.(言語)の単数・奪格(「手段の奪格」)。「彼ら自身の(ipsōrum)言語によって(linguā)」。
Celtae: Celtae,-ārum m.pl.(ケルタエ人)の主格。
nostrā: 1人称複数の所有形容詞noster,-tra,-trumの女性・単数・奪格。省略されたlinguāにかかる。「われわれの(nostrā)言語(<linguā>)によって」。すなわちローマ人の用いる「ラテン語において」を意味する。
Gallī: Gallī,-ōrum m.pl.(ガッリー人、ガリア人)の主格。
appellantur: applellō,-āre(呼ぶ)の直説法・受動態・現在、3人称複数。主語はquī。

<逐語訳>
ガリアは(Gallia)全体として(omnis)三つの(trēs)地域(partēs)に(in)分けられた状態(dīvīsa)である(est)。そしてそれらの(quārum)一つの(ūnam)地域に(<partem>)ベルガエ人が(Belgae)、第二の(aliam)地域に(<partem>)アクゥイーターニー人が(Aquītānī)、三つ目の(tertiam)地域に(<partem>)彼ら自身の(ipsōrum)言語によって(linguā)ケルタエ人(Celtae)、我々の(nostrā)言語によって(<linguā>)ガッリー人(ガリア人)(Gallī)と呼ばれる(appellantur)ところの人々が(<eī> quī)住む(incolunt)。

上のような説明で『ガリア戦記』1巻(1-6節)を解説しています。

カエサル『ガリア戦記』第Ⅰ巻をラテン語で読む
山下 太郎

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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