人間にとって技術とは何か

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ウェルギリウスは、『農耕詩』第一巻118行以下で、人間の技術の発見と発展の歴史について次のように振り返っています。ヘーシオドスとルクレーティウスの影響が大きいと思われます。

118
しかし、人間と牛の労働が大地を耕すことで、これら(の農耕の苦労)を経験したとしても(experti)、邪(よこしま)な鵞鳥(がちょう)(improbus anser, cf.145-6: labor improbus)、ストリュモ川の鶴、苦い繊維をもつキクジシャが邪魔をし、影が害を与える(umbra nocet)。

121
父(ユピテル)自らが、農耕の道の容易ならざることを望んだためである(121-2 pater ipse colendi/ haud facilem esse viam voluit)。まず初めに技を用いて大地を動かし、不安によって人間の精神を研ぎ澄ませ(curis acuens mortalia corda)、安穏とした老年の気風で自らの王国が活力を失うことを許さなかった(nec torpere gravi passus sua regna veterno)。

125
ユピテル(が支配する)以前には、いかなる農夫も土地を耕しはしなかった(125 ante Iovem nulli subigebant arva coloni)。印をつけたり、土地に境界線を引いたりすることは正しいことではなかった。人々は共同の収穫を求め、大地は自ら気前よく、すべてのものを求められずとも生み出した(127-8 ipsaque tellus/omnia liberius, nullo poscente, ferebat.)。

129
ユピテルは悪しき毒を黒いへびに加え、狼には略奪を、海にはどよめくよう命じた。蜜は葉からふるい落とし、火を遠ざけ(131 ignemque removit→プロメテウス・エピソード)、あちこち流れる葡萄酒の川を押しとどめた。

133
こうして(ユピテルは)人間の経験が、思考を通じて徐々に様々な技術を生み出すように図ったのである(133-4 ut varias usus meditando extunderet artis/paulatim)。また、畝に穀物の芽を求め、火打ち石の石目に隠された火を打ち出すように(135 abstrusum excuderet ignem→プロメテウス・エピソード)仕向けたのである。

136
そのとき、川の流れは初めて虚ろなハンノキ(=船)の重みを感じたし、船乗りはその時、星々の数を数え、名前をつけた。プレイアデス、ヒュアデス、明るく輝くリュカオンのアルクトスといったふうに。やがて、罠を仕掛けて野獣をとらえ、とりもちで欺き、大きな林間の空き地を犬で取り巻くことを人々は発見した(cf. 140 inventum)。

141
さらにある者は、川の広い範囲に網をかけ、川底をさらい、またある者は海の中から地引き網をひきあげた。そのとき、鉄の固さと耳障りな音を出す鋸(のこぎり)の刃や—人々は初めのうちは楔(くさび)によって裂けやすい材木を二つに割ることをしていたのである—さまざまな技術が生み出された(145 tum variae venere artes.)。こうして苦難の中にあっては困窮が駆り立てつつ、たゆまぬ労働がすべてに打ち勝ったのである(145-6 labor omnia vicit/improbus et duris urgens in rebus egestas.)。

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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