ディードーの死(4.693-705)

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ディードーの死(4.693-705)
Tum Iuno omnipotens longum miserata dolorem
difficilisque obitus Irim demisit Olympo
quae luctantem animam nexosque resolveret artus. 695
nam quia nec fato merita nec morte peribat,
sed misera ante diem subitoque accensa furore,
nondum illi flavum Proserpina vertice crinem
abstulerat Stygioque caput damnaverat Orco.
ergo Iris croceis per caelum roscida pennis 700
mille trahens varios adverso sole colores
devolat et supra caput astitit. ‘hunc ego Diti
sacrum iussa fero teque isto corpore solvo’:
sic ait et dextra crinem secat, omnis et una
dilapsus calor atque in ventos vita recessit. 705

このとき全能のユーノーは長引く痛みと
死に切れない苦悩を哀れに思い、オリュンプスからイーリスを遣わし、
苦闘する魂を絡み合った四肢から解放させようとした。
ディードーは天寿を全うしたのでもなく、応報の死を迎えたのでもなく、
哀れにも時満ちる前、突然の愛の凶気に身を焦がして倒れたのだった。
いまだプローセルピナは、彼女の頭から黄金の髪を切り取ることも、
その亡骸を冥界のステュクス川に引き渡すこともせずにいた。
そこで露に濡れたイーリスはサフラン色の翼で天を横切ると、
太陽に向き合い千変万化の色彩をきらめかせて
急降下し、ディードーの頭上で止まった。「命じられたとおり、わたしは
これをディースへの奉納物として届け、おまえを肉体から解き放つ」。
こう述べると女神は右手で髪の毛を切り取った。と同時に
すべての熱は消失し、ひとつの命が風の中に退いた。

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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