
語彙と文法
nīl は nihil(何も〜ない)の短縮形で、「何もないもの」「無」を意味します。
hominī は「人間」を意味する第3変化名詞 homō, hominis c. の単数・与格です。
certum は「確かな」を意味する形容詞 certus,-a,-um の中性・単数・主格で、ここでは nīl を受けています。
est は「〜である」を意味する不規則動詞 sum,esse の直説法・現在、3人称単数です。
直訳すると、「人間にとって確かなものは何もない」となります。
出典は、流刑先で不安定な境遇に置かれていたオウィディウスの『悲しみの歌』(5.5.27)です。栄華も境遇も一瞬で移り変わるという感覚には、日本語の「諸行無常」に通じるものがあります。人間の運命の不確かさを、簡潔な言葉で鋭く表した一句と言えるでしょう。
文献案内
悲しみの歌・黒海からの手紙 (西洋古典叢書)
オウィディウス 木村 健治