一を聞いて十を知る

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Ab uno disce omnes. アブ・ウーノー・ディスケ・オムネース 一から十を学べ

ローマの詩人ウェルギリウスの言葉(aen.2.65-66)。表題の直訳は「一からすべてを学べ」となりますが、「一」とは何か?「すべて」とは何か?ちょっと気になるところです。叙事詩に出てくる言葉なので、背景を簡単に説明しましょう。

主人公はトロイアの落ち武者アエネーアス。命の恩人カルタゴの女王の求めに応じ、祖国落城のエピソードを語ります。トロイアが滅びたのは、ギリシア軍の策略に騙されたからで、思い出すのも辛い出来事の数々・・・。

「一つ」の悪行を通じて彼らの欺瞞の「すべて」を推しはかってほしい。これが主人公の訴えであり、表題の言葉の説明になります。

背景はこのようなものですが、実際には日本語の「一を聞いて十を知る」と同じ意味で使われます。類似した格言として、「賢者には一言で十分である」(Dictum sapienti sat est.)というのがあります。世に言う賢い人とは、まさにこの「一を聞いて十を知る」人のことだと思います。

社会に出ると誰も横について手取り足取り教えてくれません。そのかわり、たまに言われた一言がズシッと胸に響くことがあります。その「一」を「一」として受け流すのか、「十」を学ぶチャンスとして受け止めるのか。この態度一つで人生は大きく変ることでしょう。

願わくば「一」との出会いが自分を向上させる大事なきっかけとなりますように。そう思って表題の言葉を噛みしめたいと思います。

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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