De nihilo nihil. 無から何も生まれない

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De nihilo nihil. 無から何も生まれない

ローマの詩人ルクレーティウスの言葉です。字句通り訳せば「無から無が」となり、「生じる」を意味する単語が省かれています。「無が生じる」とは「何も生じない」ということです。「火のない所に煙は立たない」と同じく、原因がなければ結果は生じません。

ルクレーティウスはギリシアの哲学者エピクーロスの原子論をラテン語に訳した人で、表題はその原理の一つ。自然界の因果関係を説明するのは死の恐怖を追い払うため。身体も魂もすべてが原子でできていること、死とは原子の解体であり人の魂も同様に解体すること。それゆえ死の恐怖は意味を持たない、なぜなら、死とともにそれを恐れる自分の意識も解体するから。このように説明します。

映画『サウンド・オブ・ミュージック』の中に「何か良いこと」という歌があります。その中に Nothing comes from nothing. というフレーズが出てきます。これは表題の英訳になります。愛する二人が出会ったのは偶然ではなく必ず理由がある。小さい頃に必ず「なにか良いことをしたからにちがいない」という内容の歌です。歌自体はメロディアスで美しいものですが、歌詞は意外に理屈っぽい。ギリシアに遡るヨーロッパの伝統を見る思いがします。

Lucretius

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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