labora. laboro.(ラボーラー・ラボーロー)

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labōrō(働く)はamō(愛する)と同じ第1変化動詞。その命令法・能動態・現在、2人称単数はlabōrā(働け)となる。

表題のラテン語は「働け。私は働く。」という意味になる。一見何の変哲もない、無味乾燥な授業用の例文に見える。

だが、私には忘れがたい文脈がある。

先に種明かしをすると、表題は、”Work. I work.”という英文の訳である。

この英文の発せられた文脈が、私にとって思い出深いということである。

場所はロンドン。Uberを利用したときのこと。運転手は中東系の若者でサングラスをかけ、強面の風貌。車は黒のメルセデス。

渋滞で停車中の信号待ちで、突然運転手が「あっちへいけ」と助手席の窓に向かって叫んだ。

彼は半分あいていた窓に近づいた物乞いを追い払った。同じ中東系の老いた物乞いであった。

しばし渋滞は続く。物乞いはまだ近くをうろうろしている。

「いっそ助手席の窓を締めてしまえばよいのに」と思って見ていると、運転手は身を乗り出し、手招きしてさっきの物乞いを呼び寄せる。

そして、数枚のコインを握らせてから、”Work! I work!” (働け。私は働いている)と怒鳴った。

愛ある叱咤激励だった。

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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