エッセイ

labora. laboro.(ラボーラー・ラボーロー)

labōrō(働く)はamō(愛する)と同じ第1変化動詞。その命令法・能動態・現在、2人称単数はlabōrā(働け)となる。

表題のラテン語は「働け。私は働く。」という意味になる。一見何の変哲もない、無味乾燥な授業用の例文に見える。

だが、私には忘れがたい文脈がある。

先に種明かしをすると、表題は、"Work. I work."という英文の訳である。

この英文の発せられた文脈が、私にとって思い出深いということである。

場所はロンドン。Uberを利用したときのこと。運転手は中東系の若者でサングラスをかけ、強面の風貌。車は黒のメルセデス。

渋滞で停車中の信号待ちで、突然運転手が「あっちへいけ」と助手席の窓に向かって叫んだ。

彼は半分あいていた窓に近づいた物乞いを追い払った。同じ中東系の老いた物乞いであった。

しばし渋滞は続く。物乞いはまだ近くをうろうろしている。

「いっそ助手席の窓を締めてしまえばよいのに」と思って見ていると、運転手は身を乗り出し、手招きしてさっきの物乞いを呼び寄せる。

そして、数枚のコインを握らせてから、"Work! I work!" (働け。私は働いている)と怒鳴った。

愛ある叱咤激励だった。

-エッセイ

© 2020 山下太郎 Powered by AFFINGER5