語彙と文法
「サピエンス・シビ・インペラト」と読みます。
sapiensは「賢者」を意味する第3変化名詞 sapiens,-entis m.の単数・主格です。
sibiは3人称の再帰代名詞suī(自分)の男性・単数・与格です。
imperatは「命令する」を意味する第1変化動詞imperō,-āreの直説法・能動態・現在、3人称単数です。
「賢者は自らに命令する」と訳せます。
余談
septem sapientesといえば「ギリシアの七賢人」をさします。アテナイの立法者ソロン、ミレトスの哲学者タレス、スパルタの民選長官キロン、プリエネの僭主ビアス、リンドスの僭主クレオブロス、ミュティレネの僭主ピッタコス、ケナイの農夫ミュソンの七人をプラトンは挙げています。
賢者は自らに命令する
このラテン語の一句は、わずか三語で「自らを律する」という人間の理想を表しています。誰かに命令されるのではなく、自分自身を導き、制御すること。それこそが賢さの一つの姿である、という意味に読むことができます。
文法的に見ると、sapiens は「賢者」、sibi は「自分自身に」、imperat は「命令する」を意味します。imperō は命令する相手を与格に取るので、「賢者は自分自身に命令する」という構文になります。
ここでいう「賢者」は、単に多くの知識をもつ人というより、自分が何をなすべきかを考え、それに従って行動できる人と捉えることができるでしょう。
この考えは、古代ストア派の思想ともよく響き合います。ストア派では、外の出来事そのものを思いどおりにすることより、自分自身の判断や欲望を理性によって律することが重んじられました。ローマの哲学者セネカも、
Imperāre sibi maximum imperium est.
「自分自身を支配することこそ最大の支配である」
と述べています(『倫理書簡集』113.30)。
現代の私たちも、「やるべきことはわかっているのに、なかなかできない」「後悔するとわかっていても、衝動に負けてしまう」という経験をします。自分自身に命令するというのは、決して簡単なことではありません。
他人を動かすより、自分自身を動かす方が難しい場合さえあります。だからこそ、自分の感情や欲望にただ流されるのではなく、それらを理性によって見極め、自ら選んだ方向へ自分を導く力が大切になります。