「フォルテース・フォルトゥーナ・アドユウァト」と読みます。
fortēsは「強い」を意味する第3変化形容詞fortis,-e の男性・複数・対格です。文の目的語です。
fortūna は「運命」を意味する第1変化名詞fortūna,-ae f.の単数・主格です。文の主語です。
adjuvat は「助ける」を意味する第1変化動詞 adjuvō,-āre の直説法・能動態・現在、3人称単数です。
「運命は、強い者を助ける。」と訳せます。
英語のことわざ”Heaven helps those who help themselves.”を思い出します。
ローマの喜劇作家テレンティウスの作品に見られる言葉です(『ポルミオ』203)。
「運命は臆病者の味方をしない」(ソポクレス断片927)という言葉もあります。
類似表現に、Audentēs Fortūna juvat.(果敢にふるまう者たちを運命の女神は助ける)もあります。ウェルギリウスの『アエネーイス』(10.284)の言葉です。
補足
ラテン語の Fortūna は女性名詞です。-a で終わる単語(第1変化名詞)は基本的に女性名詞です。Fortūna が「運命の女神」と訳され得るのは、この単語が女性名詞であることに基づきます。
Victōria (勝利、勝利の女神)も同じです。これらの単語は、英語の victory, fortune の語源です。このように、古典の時代では、抽象名詞が神格化されて用いられることがよくあります。
あと、「正義の女神」という表現もラテン語ではJustitia といいます。綴りを見れば、これも女性名詞とわかります。だてに「~の女神」とは呼ばないわけです。そう呼ぶ理由はラテン語名を思い浮かべることで理解できます。
ローマ喜劇集〈5〉 (西洋古典叢書)
テレンティウス 木村 健治
余談
表題のテレンティウスの言葉において、ラテン語の「強き者」とは内面の強さを持つ者のことで、「勇敢な者」と訳されることもあります。
ローマの内乱を描いた詩人ルーカーヌスは、「大きな恐怖は大胆な振る舞いによって隠される」と表現しました。カエサル軍とポンペイウス軍が激突する際、カエサル側の武将クリオーが部下を勇気づけるときに吐いた台詞です。雌雄を決する戦いにさいしては、後先を考えない大胆さが肝心。ルーカーヌスが手本と仰いだウェルギリウスの叙事詩にも「運命が味方するのは大胆に振る舞う者」という言葉が見つかります。
では、どうすれば勇気を持ち、運を味方につけることができるのでしょうか。大きな恐怖とは失敗を恐れる気持ちの言い換えです。自分は出来る、と思い込む強い気持ちが鍵を握ります。『アエネーイス』に船のレースシーンを描く箇所があります。運が味方しぐんぐん順位を上げる乗組員たち。「出来ると思うから力が湧いてくる」。ウェルギリウスはこう描いています。
人生、勝負しないといけない場面があります。思い切って出たとこ勝負を決め込むのもひとつ。「よし、やってみせる」という気概に満ちた者を運命の女神は後押しする。少なくともローマの格言はそう教えています。
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