女王ディードーの政治

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講読クラスではウェルギリウス『アエネーイス』を読んでいます。昨日の授業では、次の表現が目にとまりました。カルターゴーの女王ディードーの政治を端的に言い表したものです。主語はディードーですが、キケローの思想にも通じるウェルギリウスの平和への願い、すなわち武器(arma)でなく法(jūra)に基づく統治(imperium)を願う心がここに凝縮されているように思われます。

1.507-508
Iūra dabat lēgēsque virīs, operumque labōrem
partibus aequābat iustīs, aut sorte trahēbat:

彼女は法と法律を人民に与え、労働の仕事を
等しく割り当てるか、籤によってそれを定めていた。

※太字は「正義と公正」に関した語彙。

<語彙と文法の解説>
Iūra=Jūra: jūs,jūris n.(法)の複数・対格。dabatの目的語。
dabat: 不規則動詞dō,dare(与える)の直説法・能動態・未完了過去、3人称単数。主語はディードー。
lēgēsque: lēgēsはlex,lēgis f.(法律)の複数・対格。-queは「そして」。Iūraとlēgēsをつなぐ。
virīs: vir,virī m.(男、人)の複数・与格。「人々に」。
operumque: operumはopus,operis n.(労働)の複数・属格。labōremにかかる。-queは「そして」。dabatとaequābatをつなぐ。
labōrem: labor,-ōris m.(仕事)の単数・対格。「労働の(operum)仕事を(labōrem)」。
partibus: pars,partis f.(部分、割り当て)の複数・奪格(「手段の奪格」)。
aequābat: aequō,-āre(平等の分ける)の直説法・能動態・未完了過去、3人称単数。
iustīs=justīs: 第1・第2変化形容詞justus,-a,-um(正しい、公平な)の女性・複数・奪格。partibusにかかる。「公平な(iustīs)割り当てによって(partibus)平等に分けていた(aequābat)」。
aut: 「あるいは」。aequābatとtrahēbatをつなぐ。
sorte: sors,sortis f.(籤)の単数・奪格(「手段の奪格」)。
trahēbat: trahō,-ere(引く)の直説法・能動態・未完了過去、3人称単数。目的語としてlabōremを補って解釈する。「彼女(ディードーは)籤によって(sorte)仕事を(<labōrem>)引いていた(trahēbat)」。「籤を引くことで仕事の割り当てを決めていた」の意。

<逐語訳>
ディードー(<Dīdō>)は法(Iūra)と(-que)法律を(lēgēs)人々に(virīs)与え(dabat)、そして(-que)労働の(operum)仕事を(labōrem)公平な(iustīs)割り当てによって(partibus)平等に分けていた(aequābat)。あるいは(aut)籤によって(sorte)引いていた(trahēbat)。

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この記事を書いた人

ラテン語愛好家。京都大学助手、京都工芸繊維大学助教授を経て、現在学校法人北白川学園理事長。北白川幼稚園園長。私塾「山の学校」代表。FF8その他ラテン語の訳詩、西洋古典文学の翻訳。キケロー「神々の本性について」、プラウトゥス「カシナ」、テレンティウス「兄弟」、ネポス「英雄伝」等。単著に「ローマ人の名言88」(牧野出版)、「しっかり学ぶ初級ラテン語」、「ラテン語を読む─キケロー「スキーピオーの夢」」(ベレ出版)、「お山の幼稚園で育つ」(世界思想社)。

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